いつかのきみに ② (ページ45)

今日:185 hit、昨日:62 hit、合計:78,069 hit

. ページ45

　
　
　
　

風に紛れて深く息を吸う微かな音とともに、その細い首の喉仏が上下に動くのをただ見つめて、言葉を待った。

　「でも、夢じゃなければいいなって思ってる。今のところ」

そう言い放った横顔が、遠い視線が、やけに寂しそうに見えたから。

大袈裟かもしれないけど、その背中が触れてほしいと訴えかけているような、そんな気がしたから。

触れていいのかどうか考えるよりも先に、手を伸ばしているのはAのほうなんじゃないかって、そんなことを考えていた。

SG「そもそも夢じゃないのに？」

　「じゃあやっぱり、スングァニは現実の人？」

SG「…そうだよ。勝手に、夢にしないで」

何度か引っ込めたはずの右手をもう一度伸ばして、Tシャツの裾あたりを咄嗟に掴んで引っ張った。

そうして暗く冷えた夜闇の中で、一際明るい両目が静かに此方を向いて、その奥に揺らぐ大きな向日葵と目が合って。

驚いたように見開かれたそれが、不思議そうに目を丸くさせるのをじっと眺めていた。

ねえ、どうしてそんな顔をするの。

触れて欲しそうに寂しく揺らいでいたのは、きみのほうなのに。

掴んだ裾をぎゅっと強く握ったとき、水面のように浮かぶ榛色の双眸に、星屑のような眩い光がきらりと煌めく。

そこにやっと映り込んだのは、暗闇に浮かぶ自分一人の姿だった。
　
　
　
　
　
　
　