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SG「…嬉しくなかった？」
「いや、嬉しいよ。心は空を飛んでる」
SG「それをもうちょっと顔に出してよ」
「まあ、元からこの顔だから」
SG「そうじゃなくて…」
「嬉しいけど、喜んでいいかどうか考えてる」
もともと感情の起伏が少ないというか、そういうのが人より一段と薄い人なんだと思っていた。
思ったことを顔にも態度にも出さないから、"喜んでいいかどうか" なんてことを考えることがこの人にもあるんだと、不思議に思ったものだった。
普段通りの表情で、普段通りの声と話し方で。
訥々と紡がれた言葉はあまりにも普段と変わりないのに、やっぱりその目には誰もいない。
SG「…どういうこと？」
「夢だったら、どれだけ喜んでもいつかは醒めちゃうでしょ」
またよくわからない話をするなと思っていたけど、醒めない夢があれば良かったのにって、そう言って細められた目に少しの翳りがあったように見えて、隣でその顔を覗き込んだ。
その人はまた遠くのほうに視線を置いて言葉を仕舞い込んでしまったから、視線が交わることはなかった。そのまま綺麗な横顔を見つめていても、揺らぐ瞳に何が映るのかは、自分にはわからない。
SG「…この会話も夢だと思ってる？」
「夢じゃないとは言いきれない」
SG「なんでよ」
「限りなく現実に近い夢もあるじゃん」
SG「…あるけどさぁ」
「もしこれが夢なら、まだ起こさないでね。スングァナ」
SG「…なんでそれを僕に言うの」
「現実のスングァニとの会話かもしれないから」
SG「僕、いま寝言と話してるってこと？」
「どうだろう」
SG「どうだろうって」
掴みどころのない変な会話が続いて、いつも以上に曖昧なその返事を聞いてから顔をあげてふと視線を寄越したとき、静かに目を伏せた綺麗な横顔が風に吹かれて佇んでいた。
淡い影を纏うそれは、息を吹きかけただけでふっと消えてしまいそうなほどに儚くて。
繋ぎ止めておかないと、どこかへ行ってしまいそうなくらい。
その背に触れようとそっと伸ばした手を引っ込めて、また伸ばしてをひとりでに繰り返していた。
自分が触れていいのかどうかすらわからなくなる時が、たまにある。
どこにも行ってほしくはないのに、それを引き止めるための術が見つからなくてどうしようもない瞬間が、ほんの時々。
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
