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窓を開いてベランダに顔を出すと、冷えた外気が頬を包んで体温が下がるような感じがする。
5月といってもまだ寒いのに、寝もせずに薄手のTシャツ一枚で一体何をしているんだろう、この人は。
SG「寝ないの？」
「なにか見えないかなと思って。星とか」
SG「見えないでしょ、何も」
「うん。寒い」
寒いなら中に入ればいいのに。
そう思ったけど、寒いと溢しつつ動こうとしないその背中が少しだけ名残惜しそうに見えたから、眠気が来るまでは付き合ってあげようかなんて、ついそんなことを考えついてしまって。
狭いベランダの端のほうに追いやられていたサンダルに足を通して、Aの隣に肩を並べてみる。Aは暗い空をじっと眺めているだけで、その足音を聞いても特に口を開いたりはしなかった。
SG「疲れたね、今日」
「…ああ、そうだね」
風の音も響かない、鼓動ひとつさえ聞こえてきそうな閑静な夜。
ぽつりと言葉を溢したら、返されたのはいつもよりぼんやりとした返事だった。
SG「…一位取ったんだって、僕たち」
「ああ、うん」
SG「泣いてたね。みんな」
「うん。そうだね」
SG「ステージ降りてからも泣いて、スタッフさんたちも泣いちゃってさ」
「うん」
SG「…ねえ、一位の意味わかってる？」
「わかってるよ」
話を聞いているのかいないのか。それすらわからない程に適当な相槌みたいなそれを咎めてみたけど、その声色や表情が大きく変わることはない。
Aはいつも淡白なものだけど、それにしても何というか、少しだけいつもと違うような感じがしたのは、返ってくる返事が何となく上の空のような気がするっていうことだった。
何か別のことを考え込んでいるような、そんな感じがする。
夜空に溶けそうな黒髪が、乾いた風に吹かれてゆっくりと揺らいだ。
SG「Aはやっぱり泣かなかったよね」
「スニョンが泣きすぎただけだよ」
SG「泣かないAがおかしいの」
「はは」
小さく笑みを溢す声も相変わらず透き通っていて。
この人は本当に、いつ見ても綺麗なんだなと心底思う。
寝起きであろうが寝る前であろうが、時を問わずその端正な顔立ちが崩れる瞬間が訪れたことは未だにない。
それでもどうしてかその目にはやっぱり、何も映っていない、ような気がする。今日は何だか、そんな感じがして仕方なかった。理由はわからないけど。
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
