迷わないで｜2016｜SG. ページ42
SEVENTEEN、"
よく知る歌のメロディと、司会者の大きな声がマイクを通して響いたとき。目の前のファンの人達が、しきりにうちわやボードを掲げて大きく声を上げていた、そのとき。
一瞬何が起こったのかわからなくて周囲を見渡してみたら、ヒョン達もどういうことだかわからない、みたいな顔をしていたあの瞬間。
止まないたくさんの歓声や涙と、祝福の言葉と、煌めくステージライトに、金色のテープや紙吹雪。
降り注ぐどれもが夢のように輝いて、今までのすべてはこの日のためにあったんだろうって、そう強く心に抱いた今日。忘れもしないこの日のこと。
気づけば皆泣いていたし、自分もすぐに視界が歪んで、もう何が何だかわからなくて。
感謝の言葉を伝えようとマイクを口に近づけるのに、握る手は震えて代表の名前すら頭に浮かんでこなくて、収録中だとかカメラの存在だとか、そんなあれこれを忘れてぐちゃぐちゃの状態で抱き合いながら子どもみたいに泣いてしまったけど。
ふと目の端に映った綺麗なその人は、それでも泣かなかった。
Aは後ろのほうでずっと遠くを見つめては静かに口を噤んで、凛然と咲く花のように、何かを目に焼き付けるように、ただそこに立っている。
本当にただ、それだけだった。
その表情は何を思っていたのかわからなかったけど、誰よりも深く頭を下げた慎ましやかな背中と、全てを映した向日葵を宿すあの瞳が、今までで一番綺麗に輝いていたことだけは覚えてる。
あの時きみは何を思って、何をその目に映していたんだろうって。
それがずっとわからないまま、日は沈んでついには月がのぼってしまったけれど。
.
.
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SG「…A？」
その日の夜、誰もが寝静まった真夜中の宿舎の寝室。
たまたま喉が渇いて目が覚めたから、台所まで移動して水を飲もうとしていた途中で、リビングの扉を開いた瞬間になぜか部屋が冷えていることに気づく。
どこからかひゅるりと乾いた風が肌に触れたとき、小さなベランダに続く窓の向こうに、ふわりと揺らぐ短な黒髪を見た。
その瞬間、夢のようだったステージ上のあの光景が頭に浮かぶ。
古びた手すりに手をかけて、どこかを見つめて佇む背中が今日の記憶と重なって見えた。
そっと近づいて声をかけてみたら、ゆっくりと此方に振り向く綺麗な瞳。
静かすぎる真っ暗な夜に、スングァナ、なんて自分を呼ぶ声だけが響く。
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
