蝶よ花よ｜2016｜VN. ページ37
とある日の宿舎、昼下がり。
Aが帰ってくるや否や、ミンギュヒョンが慌ただしく玄関まで駆け込んで行ったかと思えば、玄関に続く廊下の方から 「ごはん！」 なんて言い聞かせるような大きな声が響いていた。
ミンギュヒョンがフライパンいっぱいのキムチチャーハンを炒めながら、Aは？！なんて声を投げかけてきたのがこの少し前の話で。
Aはよく、散歩に行くとか何とか言って部屋から消えることがある。
それを誰かが聞いているときもあれば、誰にも何も言わずに玄関から靴だけが消えていたりとかで、昔はよくヒョンたちが探しに行っていたものだった。
猫みたいにふらふら出ていってしまうから、きっと心配だったんだと思う。
戻って来なかったらどうしようって。
きっとそんなことはないはずなんだけど、Aならやりかねないような気がしたから。
MG「ハクや」
「…」
MG「ちゃんと食べなきゃ大きくなれないよ」
「もうこれ以上は無理だと思うけど」
開いたリビングの扉の先、仲良く手を繋いで戻ってきたものかと思ったら、Aが引きずられるような形で手を引かれているのが見えたから、ミンギュヒョンに無理やり引っ張り出されただけなのだと思い直して、掻き集めた最後の一口を口の中に放り込んだ。
どっちが歳上だかわからないなとつくづく思う。
この二人もちゃんと仲は良いはずで、というかむしろこれは、ヒョンがAに懐きすぎた結果とも言える話なんだと思う。
世話焼きのヒョンが、思いの外自分のことを投げやりにしがちなAのことを鬱陶しいくらいに気にかけるのも、もう当たり前のことだった。
椅子から立ち上がっておかえりと声をかけたら、律儀にただいまと返事が返ってくる。その表情こそ普段通り変わらないと言えど、多少の変化はわかるようになってきたような気がした。
今のこれは、少しだけ元気がないというか、嫌そうというか、そんな感じがする。多分それも、大方ミンギュヒョンのせい。
リビングの椅子に座らされたAがやけに小さく見えるのを感じながら、その周りをせかせかと動くミンギュヒョンの姿を横目に見ていた。
MG「昨日もごはん食べなかったでしょ」
「食べたよ。出前とったじゃん」
MG「いや、こんなちょっとしか食べてなかった」
「それを食べてるって言うんだよ」
MG「あの量は食べたうちに入らないの！」
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
