馬鹿な死に際｜2016｜WZ. ページ32
「死んだほうがマシだって思ったことある？」
話題選びを間違えている。絶対に。
ついでに言えば、話しかける相手も間違えていると思う。確実に。
色々と忙しい時期だった。次のカムバックが近づいて、必然とスケジュールも詰まりきって、僅かな隙間の数時間にすら練習を詰め込むみたいな、世間一般で言うほぼ繁忙期らしきこの期間。
振り付けの動線移動がおそろしく難しくて、約2時間ほど苦戦したのちにようやっと休憩の声がかかったのがちょうど今。
このまま床に崩れてしまおうかと考えていた、ちょうど、たった今。
死んだほうがマシどころか、既に死んでいると言うほうがむしろ近い。
WZ「今……」
「死ぬ？」
WZ「しぬ」
「はは」
笑い事ではない。膝は笑っているけれども。
回らない頭で、脊髄反射みたいな感覚で返事をしてはその笑い声を聞く。
ほぼ重石に近い鉛みたいな身体を引きずって、床に身を投げるような形でどしゃりと雪崩れ込んだ。冷えた床が気持ちいい。
倒れたあとで視線を投げた先にちょうどAがいたものだけど、本人はというと部屋の壁に寄りかかっては汗ひとつかかず、膝を抱えてひとりでにぼうっと遠くを見つめているばかりだった。
練習を始めた2時間前と何ら変化はない。
この状態を見て、本当に同じ人間かと疑いたくなるのも無理はないと思う。
WZ「化け物だろ…」
「平気なフリしてるだけだよ。もう立てない」
WZ「いや、嘘だ」
「嘘もそのうち本当になるとか言うじゃん」
WZ「やっぱり嘘じゃん」
「うん。嘘」
WZ「なんだよおまえ…」
口を動かすのも面倒になってきて、そのまま目を閉じてやろうかとさえ考えた。そしたらすぐそばまで何かが転がってくるのが見えて、掌で受け止めたそれは水の入ったペットボトルだった。
半ば引き摺るような形で重い身体を起こしてAのほうに視線を戻すと、その綺麗な瞳は此方を向いていて。受け止めたペットボトルを掲げたら、なぜかピースサインが送られてきた。何も言わないし顔つきも変わらないからどういう意味かはよくわからないけど、多分飲めってことだと思う。多分。
ペットボトル蓋を開けてすぐ、渇いた喉に一気に流し込んだ。
WZ「…なんの話だっけ」
「生きるより死ぬほうがマシかどうか」
WZ「……死にたいの？」
「そうだって言ったら？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 612人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
