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MH「…Aのこと、思ったより知らないのかも」
VN「誕生日は？」
MH「…11月？」
VN「知ってるじゃん」
MH「…いや、知ってるけど」
知ってるつもりでいただけだと言われれば、きっとそれだけだった。
言ってしまえばたかが実家の猫の話で、大してここまで気にするべきことでもなかったはずで。
でも、知ってるつもりで実は何も知らなかったような、そんな何かを突きつけられたような気もして、なんとも言えない気持ちが胸のあたりに降りてくるのを感じていた。
それに反してボノニは、平然とした表情で既に鏡と向き合い始めている。胸のあたりで彷徨うように行き場のなくしたこれを、どうしたものかと抱えたままにその背中をただ眺めた。
VN「じゃあ、ドギョミヒョンはAのこと捕まえられると思う？」
MH「…無理じゃない？」
VN「なんで？」
MH「Aは足が速いから」
VN「ほら、知ってるじゃん」
MH「…うーん」
ボノニの言う "知ってる" と、自分の言う "知ってる" の基準は違うんだろうと思った。何てことなさそうな顔でストレッチをし始めるボノニの横顔を見つめながら、よくわからなくなって頭を傾ける。
自分は単に知りたいだけなのか、教えてもらえないことに疎外感を感じているのか、その理由までは思いつかなかった。
どうして自分がこうも寂しさのようなそれを感じているのか、そもそもどうして教えてはもらえないのか、それを聞いていいのかどうかさえ、結局は何もわからない。
何となくその場にしゃがみ込むと、大きな鏡越しにボノニと目が合った。
そのまま流れる静かな沈黙の中で、物言いたげな自分の言葉を待っていてくれたようにも思う。
MH「…ボノニはそれ以外の家族の話、聞いたことある？」
VN「いや、ない」
ないけど、AはAだよ。
そう言ってぐっと伸びをしたボノニは、このときから何か考え込んでいたような気がする。今思い返せば、ボノニもボノニでAをわからないなりに、Aをわかろうとしていたんじゃないかとも思った。
何も知らなくても、きみのそばに長くいられるなら、きっとそれでいい。
どれだけ考えようと辿り着く答えは、それしかなかったはずだから。
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
