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肩に顎を乗せたまま、腕を巻きつけて抱いた身体をゆらゆらと前後に揺らす。Aはされるがままに無抵抗で、そこから制止の手が伸びてくることも、別の言葉が降ってくることもなかった。
少しの間を挟んだあと、すぐそばから聞こえてきたのは懐かしむような優しい声。
「飛んでくるなら、てんとう虫がいいな」
JN「…てんとう虫？」
「一番好きなんだよ、てんとう虫」
JN「なんで？」
「子どもの頃、よく服にくっついてたのがてんとう虫だったから」
一緒にいてくれてるような感じがして、あのときはすごく嬉しくて。
ふと目を伏せた横顔に、少しのあどけなさを感じたのはこのときだった。
いつもは大人びた綺麗な顔で毅然としているように見えるけど、こういうふとした瞬間に子どもみたいな顔をすることが最近はよくある。
何を考えてるのかわからないって言われているのも見たことがあるし、大人なのか子どもなのかわからなくなることが多いけど。自分にとっては、これほどに可愛い表情も言葉も他にないと思う。もっとたくさん笑ってほしいとも思うし、幸せでいてほしいとも思うし。
JN「匂いにつられて来たんだね」
「花だと思って？」
JN「うん。いい匂いだなって」
「でも、最近は来ないよ」
JN「ずっと？」
「うん。ずっと、来ない」
Aの頭に被せていたタオルが、ずるりとずれ落ちて目にかかる。
タオル越しにまだ水分が残ったままの前髪が重く揺れるのを見た。
巻きつけていた腕を少し緩めて、身体を離してみる。
それでもその表情は見えずに、同じ声のトーンで語られた言葉がそこから聞こえてくる以外に何もなかった。
JN「…なんでかな」
「なんでだろう」
目にかかる濡れた黒髪と白いタオル。
表情を隠すそれにそっと手をかけてみたら、いつもの輝く瞳と綺麗な顔がちらりと覗く。
こうして見ると、ステージ上で見るのとでは随分と印象が違うようにも思う。髪が濡れているからとかそういうのもあるんだろうけど、なんというか。いつもより幼いような、子どもみたいな何かがそこにある気がする。
その顔を覗き込むように顔を近づけてみたら、ほんの少しの悲しみを纏う向日葵の双眸と目が合った。
不思議そうに瞬くそれは、いつ見ても平気そうに同じ場所に佇むのに。
「…なに？」
JN「寂しい？」
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
