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JN「だからいつも気付くんだ」
「…ああ、驚かす時？」
JN「絶対気付くもん。教わった通りにやってるのに」
「でも上手くなってるよ、ちゃんと」
JN「でも匂いでわかるんでしょ？」
「まあ、うん」
納得したのと同時に、やっぱり犬みたいなことを言うなと改めて思う。
なるほど、匂いで判別できてしまうなら確かに、いくら気配を消そうが近づいたときに気づくのも当然なのかもしれない。
それは勝ち目がないわけだとわかった。今までの謎がやっと解けたような気がする。まあ、それはそれでずるい能力だなと思う気持ちは少しだけあるけれど。
リビングの壁際に置かれた小さなソファ。
そこへ仮眠用に置かれてある薄い布団の上に放られていた携帯電話を手に取ったあと、腰を下ろして沈み込むまでを見つめていた。画面をつけて時刻を確認してから、首に掛けていたタオルを被って髪を拭き始める。
その隣に座り込んでみたら、榛色の大きな瞳がおもむろに此方へと振り向くのが見える。少しだけ低い位置にあるそれが、見上げるように静かにじっと。
JN「鼻がいいんだね、ハクって」
「前世に犬だったときの名残だよ」
JN「犬より猫っぽいと思うけど」
「そう？」
JN「うん。にゃーって言って、にゃーって」
「わんわん」
JN「にゃーだってばㅎㅎ」
鳴き真似をするAが珍しくて可愛くて、思わず笑みが溢れていた。それを見てAも小さく笑うから何だか嬉しくなって、勢いのまま薄い身体に腕を回して、凭れかかるように抱きつく。じゃれつくようにぎゅっと腕に力を込めたとき、こつんと頭がぶつかるのがわかった。まだ湿ったままの細い髪が頬を柔く擽ってくる。
それでも案外倒れることはなくて、ソファの上で自分を受け止めた少しだけ小さなその身体から、甘くて優しい花のような香りが鼻を掠めて過ぎていくのを感じた。
その肩に顎を置いて、首元に顔を近づけてみる。
石鹸とシャンプーの匂いに混じるのは、やっぱり淡くて華やかな香り。
JN「ハクもいい匂い。花みたい」
「花？」
JN「うん。蝶とか飛んできそうな感じ」
なぜかすごく落ち着くような、心が鎮まるような温かな気持ちでいる。
こんなことを言うのは少し変だと思うけど、言葉では表現できない心地よさがそこにはあった。優しい何かに包み込まれて守られているみたいな、花に囲まれているみたいな、例えるならそんな感じの。
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
