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触れる手だけじゃ誰か判別がつかないだろうと思っていたのに、それすら読みが甘かったみたいだ。Aくらいにもなると、手だけで誰が誰なのか言い当てられてしまうのかもしれない。
…それとも、こんなことをするのは自分だけだと思われているのかも。
すんなり認めるのは何となく悔しくて、せめてもの抵抗として別の人の名前を挙げてみた。その目を両手で覆ったまま、もちろん普段とは違う声で。
「いつもと違うね、ミョンホや」
JN「声変わりしたの」
「急に？」
JN「じゃあ、風邪ひいちゃった」
「ああ、そうなんだ」
それは早く治さないと、ジュナ。
目隠しをしていた手を握ったあと、そう言って此方に振り向いた瞳が、何もかもお見通しって感じに透けて見えた。
時々こうやって、後ろにも目がついてるんじゃないかって思う瞬間がある。Aのイタズラには気付けないのに、自分が仕掛けたものは悉く成立せずに振り向かれてしまうから。
ああ、おかしいな。これならうまくいくと思ったんだけど。
JN「…なんでわかったの？」
「ジュニの匂いがするから」
柔軟剤とかじゃなくて、ジュニの匂い。
握られた手がそのままAの顔の近くに引き寄せられたかと思えば、手の甲の匂いを嗅ぎながらぽつりとそんなことを言う。
犬みたいなことを言うなと思った。いや、もしかするとありえる話なのかもしれないとも思うのは、相手がAだからなんだろうな。
Aってなんか、動物並みの五感を持ち合わせていそうだから。何となく。
とはいえ、自分自身の匂いなんて自分では感じたこともないわけで、洗剤とかじゃないっていうことはつまり体臭か何か、なんだろうけど。
試しに反対側の空いてる手を鼻に近づけてみるけど、やっぱり何の匂いもしなかった。
JN「……そんなに変な匂いする？」
「ううん。お日さまみたいな匂い」
JN「おひさま？」
「あと、石鹸の匂いも」
いい匂いだよ、って。
温い指先が知らぬ間に手からぱっと離れていって、その顔が前を向いたとき、少しだけ離れた距離を埋めるように慌ててその後を追う。
ぺたぺたと裸足で歩く後ろ姿はいつも通りで、ふわりと微かなシャンプーの香りが鼻を掠めていく。
それで、やっとわかった。
Aがどうしていつも振り向くのかっていう理由が。
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
