揺れる尻尾は、ふたつ｜2015｜JN. ページ16
Aはなぜか、何にでも気がつく人だ。
何か隠そうとしても大概のことは見破られるし、後ろから近づいても気づくし、どんなに息を潜めても、足音を消しても、何があっても絶対に振り向くのがAだった。
その黒い髪がじっと動かずにいたことは、今までに一度もないと思う。
それだけ常に周りを見ているというか、物音や気配に敏感なんだろうなとは思うけど、時々何かそういう特殊能力とか使ってるんじゃないかってありえないことを考えることがないわけでもない。
あまりにも勘が鋭いから。何においても。
今も、そろそろ寝る準備をしようと思って寝室へ行く途中にリビングを通りかかったとき、シャワーを浴び終わったであろうその後ろ姿が見えたから。ラフなTシャツとズボンから、細長い手足がすらりと伸びている。
湿った短い黒髪と、綺麗な形の丸い後頭部。タオルを掛けた細長くて白い首。それがジョンハニヒョンと似ているなんて言われることもあるけど、練習室でずっとこの後ろ姿を見てきたおかげか、髪型が変わってもこれはAだって何となくわかる。
ただ、昔はあの肩につくくらいの綺麗な髪が揺れ動くのが好きだったから、まあ寂しい気持ちがあったりなかったり。
今思えば、宿舎でなら気が抜けて無防備だったりするんじゃないか、なんて安直な考えで近づいた自分の負けだったんだと思う。
というか、相手がAの時点で勝てる確率は高くないわけだけど。
それをわかっていながら仕掛けてしまう自分も自分なんだろうけど、日が訪れる毎に今日こそはってなぜか思ってしまうのが不思議だった。
というか、最近はもう身体が勝手に動くというか、気付くと近寄ってしまっているような気がする。引き寄せられる磁石みたいに。
そういうわけで、今日も淡い期待に突き動かされてその背中に近寄ったあと、後ろから目元を掌で覆うように手を伸ばしてみた。
だーれだ、なんて言うようなよくあるあれ。
「ジュナ」
JN「…違うよ。ぼく、ミョンホ」
案の定だった。
期待なんて抱くほどのものでもない。可能性と呼べるはずだったものがすべてどこかへ消え去って、残ったのは自分の名前だけを告げた鈴のような静かな声だけ。
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
