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いや、基本的に何においても長けた何かを持っているんだけど、Aは。
だから憎くて仕方がない時期があったのに。それこそつい昔まで。
今は何というか、幼い子どもか何かを相手にするような気持ちでいる。
顔立ちが顔立ちなだけに、中身とのギャップが大きすぎて最初の頃は違和感もあったな、なんて時々そんなことを思い出す頻度も最近は増えたような気がする。
しゃがみ込んで此方を覗き込んでいた状態から、また立ちあがろうと動くAの揺れる黒髪を目で追っていた。
SC「ハクや」
「うん」
SC「おいで」
何となくブランケットを被って寝転んだまま手を広げてみたけど、いや、いい。なんて真顔で首を振られてしまった。
たまにこういう時がある。ツンデレのツンと言うほどのものでもないけど、人を警戒する猫みたいに近寄ってきてくれない時が。
いつもなら何をしようと抵抗すらしないくせに、こういう時ばかりは一向に近寄ってきてはくれない。気分なのか何なのか、未だに理由はよくわからないんだけれども。
SC「なに。嫌？」
「嫌というか、離してくれなさそうだから」
SC「一瞬だよ一瞬」
「衣装が皺になる」
SC「…あーわかったわかった」
今日のこれは折れない口ぶりだなとわかって、広げた手を渋々元の位置に戻す。
手に提げていた重そうなビニール袋を床に敷いた大きなマットの上に手放したあと、うろうろと部屋の中を彷徨うその背中をソファの上で見つめる。
相変わらず華奢で薄い肩だなとか、姿勢が綺麗だなとか。思うことは色々とある中で、その短い黒髪だけが浮いているような感じがして不思議だった。
まだ馴染みがないというか、見慣れない違和感のほうが勝つ。綺麗なことには変わりないのに、なぜか。
やけに静かなような気がして、重い身を起こして辺りを見渡してみると、隅の方でミンギュとボノニが眠りこくっている以外、部屋には誰もいなかった。
SC「あいつらは？」
「脱走した」
SC「…
「飲み物買いに。あとはまだメイク中」
SC「最初から普通に言え」
その違和感とは裏腹に、口を開いて放つ言葉は全くのいつも通りだったおかげで少し安心するような、しないような。
普通に言えばいいのに、こうやって小さい嘘をいちいち挟んでくるのがいつものAだった。それも絶対に有り得ないだろうなっていう、すぐに見抜けるような変な冗談。
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月1日 3時
