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「柳くん、何をしているんですか?」
「え?」
「早くタクシーで病院へ行きたまえ。」
眼鏡越しにキリッと睨まれる。
紳士らしくない眼差しだ。
「俺は部活がある。
それに普段から仲がいいお前達が行くべきだろ?」
そう言うと、信じられない…とでも言いたげな表情を浮かべた。
彼氏が行くより友達が行った方がいいに決まってる。
固まる柳生を尻目に俺は練習へと向かう。
はずだった。
仁王がふらりと現れ、いつもの猫背はどこへやら。
胸を張った状態で顔を真っ赤にさせていた。
そのままずんずんと此方に進んでくる。
何やら怒っている様子だ。
「おい。今の言葉は正気か?」
「後のことは先生に任せとけばいい。」
「参謀…いや、柳。」
「なんだ?」
「あいつのこと、好きじゃないんか?」
急に質問が飛んだな。
と言おうとしたがそんな雰囲気でも無く、空気を読んだ。
俺はAのことを…。
最初は、面白い女の子だと思っていた。
全身で、行動で、俺の事が好きだと伝えてくる。
映画の誘いに乗れば嬉しそうに笑うし、テニスの試合があるといえばお守りを作ってくる。
裁縫は苦手だとデータ上分かっていることだが、余程頑張ったんだろう。目の下にクマを付けてにこりと笑った。
挨拶をすれば少し頬を赤らめて会話を繋げてくる様子が
面白くて興味深くて可愛くて
愛おしく思えた。
だから答えは
「当たり前だろう。」
「大切か?」
「あぁ。」
「本当に好きならそばにいてやれ。じゃないと、」
「私が取ってしまいますよ。」
「それは駄目だ。」
「ちょ、やぎゅ、俺のええとこ…」
「さぁ!行きたまえ柳くん!」
声を張る眼鏡が指さす方向には1台、タクシーが止まっていた。2人に「恩に着る」と言い残す。
数分すると病院に着いた。
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作者名:さたらま | 作成日時:2022年2月4日 2時