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「A!!!!」
仁王の叫ぶ声が聞こえる。
その時コート外にいた俺は、部員がざわめいている姿を見て、ただ事じゃないとコートの中へ入った。
あそこは確か、弦一郎と赤也が試合をしていたはずだが。
俺の彼女の名前を言っていたような。
疑問に思いながらも分析しつつ歩み進める。
目に飛び込んできたのは、柳生に抱えられるAと顔面蒼白の仁王だった。
「な、何が起こっている!」
近くにいた後輩に聞くと、赤也のボールがフェンスを突き破り見学していたAに当たったそうだ。
まだ言いたげだったが、それを最後まで耳に入れることなく俺は3人の元へと走った。
「仁王!柳生!」
「柳くん…。」
「参謀か。」
目の前で起きたことがまだ脳内処理できていない俺を察したのか柳生は 意識がないから病院へ と言った。
確かに硬式テニスボールはすごく硬い上に、
普通に当たっても痛い。
ただでさえ赤也の勢いのあるボールを喰らったんだ。
脳震盪は起こしているはずか。
「病院…、そうか、病院だな。」
「…俺が救急車を呼ぶ。」
「仁王?」
「おまんはAのことを見ててくれ。」
そう言うと仁王は「先生を呼んでくる。」と走っていった。
「待ってください仁王くん!」
柳生はAを俺に渡し、後を追いかけて行った。
いつの間にか集まってきた立海レギュラー陣は、
濡れたタオルを彼女の鼻に当てたり、
鼻血を止めるティッシュを作ったり、
日陰に移動させろ、と対応していく。
そんな中、オロオロと佇むのは赤也だ。
俺と目が合うなり頭を下げた。
「すっ、すんませんっ!柳先輩…俺、!」
「赤也。」
「は、はい。」
「謝るのは俺じゃない。」
本当は怒りたくて仕方がない。
Aを怪我させたんだ。
貞治の時もそうだった。
だが試合に勝つためには赤也を咎めないこと。
無関係だと思い込むことが何よりの心の逃げ道だった。
癖が抜けない俺は彼女が傷つけられても冷静にしている。
痛そうに顔を歪ませるAを見つめながら
「ごめんな…。」
と呟いた。
そうこうしているうちに、救急救命士が到着すると顧問と共に車に乗って行った。
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作者名:さたらま | 作成日時:2022年2月4日 2時