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不知火は俺を見るなり、泣き出してしまった。
久しぶりに不知火が泣いているところを見たものだから俺はどうしていいか分からず、戸惑いを隠しきれなかった。
この状況をどうしようか考えていると、不知火が俺に抱きついてきた。いきなりのことで少し驚いたものの、俺も不知火を抱きしめ返した。
余程、何か辛いことがあったのだろうか?
不知火は更に俺を強く抱きしめてくる。俺はそれがなんだか、求められているような気がして嬉しかった。だから俺も不知火を更に強く抱きしめ返した。
何故だろうな……。
不知火のことをこんなにも懐かしく思うのは……。
俺は何を忘れているんだ?
俺は何か大切なことを忘れている。
確かにその大切な何かは、俺にとって何より大切でかけがえのないものだったはずなんだ。
そんなことを考えていると、突然不知火から名を呼ばれ、一気に現実に戻された。
不知火が月明かりに照らされ、徐々に姿を現す。
それと同時に、俺が忘れていた記憶の蓋も徐々に開いていく。
“バイバイ、文次郎!”
あぁ、待ってくれ。
俺を置いて行かないでくれ。
お前は言ったじゃないか。
ずっと一緒にいようと、ずっと一緒にいられると。
“もし僕たちが卒業して、就職した先の城が敵同士だったらどうしよう…僕、みんなと戦いたくないよ……”
“何を甘ったれたことを言っとるんだ!”
“ははっ、伊作ってば考え過ぎだよ。卒業っていってもまだまだじゃん。それに私たちならずっと一緒にいられるよ。”
“…うん…そうだよね!”
確かにお前はそう言った。
なのに…なのに何故っ……!!
_____ずっと一緒にいて。
不知火のその言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かがプツリと切れた。
俺は無意識に不知火の唇を奪っていた。
何度も何度も激しい口付けを繰り返す。
不知火は立っていられなくなったのか、膝から崩れ落ちそうになっていた。
だが俺はやめない。
無理矢理不知火を抱き寄せて行為を続ける。
このどうしようもない気持ちを、不知火にぶつけた。駄目だとわかっていながらも、俺はやめることができなかった。
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作者名:ずみ | 作成日時:2019年11月2日 17時