〜３８〜 ページ38
目の前の扉を勢いよく開けると、視線が一気に俺へ集まった。
「すみません、大沢さんはいますか」
上がる息を整えながら問う。
だけど人事部の人間は顔を見合わせるだけで何も言わない。
･････これは、知ってる顔だ。
じゃあ何で黙ってる？
言うなって言われたのか？誰に？
でも教えてもらえないのならもういい。
立ち止まってる時間はない。
俺はすぐに踵を返し、会社内を探して回った。
しばらくして、スマホが何度か震えた。
誰からの連絡だろうと電源をつけると、そこには「ニノ」と表示されていた。
滅多にラインなんてしない奴から連絡が来たことに少し嫌な予感を覚える。
「ニノからライン･･･？このタイミングでってことは･･･」
もしかしたらAに関してのことかもしれない。
俺は急いでアプリを開いた。
「････「Aさんが会議室で泣いてる」･･･？」
一瞬、空気が冷えた。
Aが泣いてる？何でだよ？
････いや、薄々分かってる。
俺の軽率な行動があいつを傷付けたんだって。
でもまさか一人で泣いてるなんて思いもしなかった。
「っ･･･馬鹿女････！」
俺を責めればいいものを、一人で抱え込みやがって。
イライラと罪悪感を抱えながら、俺は会議室へ一目散に駆けた。
.
.
驚かせないよう、扉をゆっくり開ける。
椅子に座っていたのはニノの言う通りAだった。
泣いているのかと思いきや、今は寝ているようだった。
そっと隣に座り、Aの顔を覗き込む。
･･･目が赤く腫れている。
泣いていた証拠だ。
「･･･勝手に勘違いして泣くなよ」
なんて、俺こそ勝手な言い分だと思う。
勘違いさせたのは俺で、泣かせたのも俺で。
悪いのは完全に俺なのに、それでも･･･
一人で泣いてほしくなかった。
「櫻井くんの嘘つき！」なんて直接文句言ってくれたほうがずっと良かった。
「･････ごめん」
Aには届かないと知りながらも謝罪の言葉を零す。
もし、俺が「好きなのはAだけだ」とか
「社長令嬢なんてなんとも思ってない」って言ったら、お前は信じるか？
「････はぁ。まーた潤に怒られるな」
仕事放ってきたけど、まぁいいか。
普段やってるし。
それに、今こいつを放っておいたら･･･一生後悔するような気がしたんだ。
肩にAの温もりを感じながら、俺はゆっくり目を伏せた。
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作者名：みかづち
| 作成日時：2020年5月14日 13時
