〜３７〜 ページ37
『分かった。じゃあまた電話するね』
「いや、こっちからするわ。今みたいに出るのが難しい時とかあるし、それなら俺からのほうが確実だろ」
『そ、そう？じゃあ待ってる』
「おー。･･･あ、いつでも出られるようにしとけよ」
『うん』
何だか会話が付き合いたてのカップルみたいで照れくさくなる。
浮かれてるのはきっと俺だけで･･･馬鹿みたいだけど、でもすげぇ楽しい。
『ふふ』
「なに笑ってんだよ」
『ううん、何でもないよ』
「･･･あっそ」
一瞬、俺の考えを読まれたのかと思った。
････まぁ、あの鈍感馬鹿が分かるわけないか。
むしろ気付かれたら恥ずかしい。
「んじゃまた後日･･･」
そろそろ電話を切ろうとしていた時だった。
「翔さん、電話長いですよ！」
社長令嬢が腕に絡みついてきた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿は？
「･････ああ、ごめんね。もうちょっとで終わるから待ってて。ほら、腕離して」
驚きと苛立ちで敬語が外れるが、なんとか優しい言い方だけは維持できた。
何してくれてんの？おい。
せっかくAと楽しく話してたのに、それを邪魔して。
散々付き合ってやったんだから大人しく待っとけよ。
そんな思いを抱えながら聞こえないようにため息を吐いた。
「ったく･･･もしもし？」
･････何故か、話しかけても返事が返ってこない。
さっきまで普通に話してたよな？
「？おい、」
『････櫻井くんの嘘つき』
「は？」
突然嘘つき呼ばわりされて、冷静に返せる奴がいるのだろうか。
いたら連れて来い。
とにかく、Aから罵られたことに驚いて一瞬固まる。
『････ごめんなさい、今のは嘘。･･････お幸せに』
「は？なに？っおい、みつき！？」
我に返り、慌てて呼びかける。
だけどAはこっちの呼びかけを無視して切ってしまった。
それからしばらく、俺は携帯を見つめて呆然としていた。
･････何でAはあんなこと言ったんだ？
しかも、「お幸せに」って。なんだよそれ。
意味分かんねぇよ。
「翔さぁん？」
社長令嬢の声が遠く感じる。
耳には、あいつの泣きそうな震える声がずっと残っていた。
「････悪いけど、急用ができたから帰るよ」
「えー？もうちょっとくらい、」
「大事な用なんだ！･････また今度」
目を見開き立ち尽くす社長令嬢を放って、俺は走って会社へ戻った。
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作者名：みかづち
| 作成日時：2020年5月14日 13時
