〜２３〜 ページ23
「････っうっし！取れた！」
思わずガッツポーズする。
まさか一発で取れるとは思ってなかった。
「はい、これ」
『ふふ、ありがとう』
Aは嬉しそうにはにかんでぬいぐるみを受け取った。
また胸が高鳴る。顔が熱くなる。
そうだ、そうだよ。
俺、ずっとこうして笑ってほしかったんだ。
「････その笑顔が見たかったんだよ」
『え？』
「あの日俺が見惚れた、大好きな笑顔」
その笑顔を、俺に向けてほしいってずっと思ってた。
まさか今日叶うなんて。
顔を赤くするAの手を引き、売り場へと足を運ぶ。
私が買ってくるよ！なんてポップコーンとジュースを買いに走った彼女の背中を見送る。
おいおい、こけるぞ。
･････にしても、本当に夢みたいだ。
こうやって二人っきりで過ごしている時が。
こうして隣で話せる空間が。
そして、Aの目に映ってるのが智くんじゃなく俺だって事実が
何よりも嬉しい。
って、別に付き合ってるわけでもないけど。
しばらくして買ったものを抱えながら走ってきたA。
本当に危なっかしくて「歩いて来いよ」と注意してしまった。
俺はお母さんか。
『そういえば、櫻井くんはこの映画の原作知ってるの？』
「高校の時にクラスメイトがその話してたから多少は。あれでしょ？お互い嫌い合ってたのにいつの間にか好きになってたってやつ」
『そうそう！王道中の王道なんだけど、すっごく泣ける話なの』
そう言って話すAは本当に楽しそうで････。
内容は全然知らないけど、ちょっと楽しみだな、なんて浮かれた。
.
.
[ごめんなさい！私････山田くんのことが好きなの！]
[もう幼馴染でいられなくなるとしても･･･彼を選ぶの？]
[うん。私、山田くん以外考えられない。ごめんね]
『うっ、うう････！』
会場中からすすり泣く声が聞こえる。
隣も泣いてる。
･････このヒロインの境遇ってちょっとAと似てるよな。
幼馴染か好きな男か、どっちか選ばなきゃいけない。
だけどどっちかを選んだらもう片方とは元の関係ではいられない。
さぁどっちを選ぶ？って。
まぁ今のところは俺じゃなくて智くん選ぶんだろうけど。
と、隣の視線に気付く。Aだ。
「････なに？」
不思議に思って問うが、Aはぼうっと俺を見つめるだけだった。
････見惚れてんの？
って、さすがに自意識過剰が過ぎるか？
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作者名：みかづち
| 作成日時：2020年5月14日 13時
