まだ見ぬ地図～短編集～ (ページ6)

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＊アイドル(緑) ページ6

私の元彼の中に、今はアイドルをやっている人が居る。
ただの元カレじゃなくて、私達は幼なじみでお互い初めてのカレカノだった。
多分、名前を出せばみんな知ってるであろう関ジャニ∞の大倉忠義だ。
私が付き合っていたのは中学生のときで、お互いそれからたくさん恋愛もしてきたと思う。

「あ、忠義」

テレビをつけるとちょうど、歌番組で関ジャニ∞として、忠義がスーツ調の衣装を綺麗に着こなして、カメラに向かって踊っている。

私が知っていた頃の忠義なんてヘタレで弱虫で、泣き虫だったのにな。
今は守らなきゃいけないものに囲まれて、すごく頼もしく見える。

その姿を見るとすごく感動してしまって、つい忠義のお母さんに『忠義、逞しくなったな』なんて送ってしまう。

忠義のお母さんもそのテレビを見て居たのか『我が息子ながら完璧に育ったわ』なんて少しだけ笑える返信が直ぐに返ってきた。
こんなことあんまりないし、と思って忠義のお母さんと少し会話を続けてると『今週末、京セラで忠義のLIVEあるの、来れるやろ？』

生の忠義なんてしばらく見てないし、すごく会いたくなって、迷うことなくその誘いを快く受ける。
忠義のお母さんと一緒に、関係者席に座れることになった私はどんな服を着ていくか、なんて柄にもなく真剣に迷っていた。

そして、ついにLIVEの日。
少しだけ背伸びした薄い緑色をした膝丈のワンピースを着て、忠義のお母さんの運転する車に乗り込む。

「わざわざごめんなぁ、息子のLIVEに幼なじみなんかが」

なんて笑いかけると、忠義のお母さんは微笑んで気にせんで、と言った。
ウチから京セラは割と近くて、忠義のお母さんと思い出話をしていたら直ぐについてしまう。
普段、LIVEやスポーツ観戦で来る時とは違う道から慣れたように入っていく忠義のお母さんの後をはぐれないように着いていく。

「わ…凄い」

アイドルのLIVEなんて来たことがなかった私は会場に足を踏み入れた瞬間、その雰囲気に圧倒される。
ドームを埋め尽くす、何万人もの人が関ジャニ∞に、忠義に会いに全国から来てるんだ。

テレビを見てるだけでは感じなかったけど、いつからか私たちの間には埋められない深い溝が出来てたんだ、なんて今更思ったりした。
まだ、LIVEが始まる前なのに涙がこぼれ落ちてくる。

「…大丈夫、忠義は変わってないよ」

私の流す涙の意味に気付いた忠義のお母さんが、そう言って笑いかけてくれる。