＊ ページ38
やっと幸せが舞い降りてきたような、そんな気がしたのに。
「そんな顔せんといて…」
僕やってほんまは帰りたないねん。ここにずっと居りたい。なんて今度は弱々しく呟くから私の心は最大震度が測りきれないくらいに揺れている。
駆け落ち、なんて言葉も頭を巡ったけどどんな時間に逃げたら見つからないんだろう。
きっと、未来のことだからどこまでも追いかけてくるはず。
「安田さん…私…」
離れるなんて嫌だ。
なんて、まるで子供のように駄々を捏ねてしまう。
でも、ここで送り出したらもう一生会えない気がして。
20年離れているということは彼の時代に追いついた時私はもう40代。
彼と恋愛するには少しだけ遅すぎる。
「…でも、もう時間や」
切ない表情のまま私の手を離そうとするから、その手をぎゅっと握り締める。
安田さんは、また少し困った顔をして私を見る。
「諦められんくなるやろ」
「諦めないでください…」
「お互い、辛いで？」
それでも、いいから。
なんて、何時から私はこんなにめんどくさい女になったのか、今更気付いて悲しくなるけど。
「ほんなら…20年後の今日、ここで待ち合わせや」
そう言って私に優しくキスをすると、私の手から離れていく感触があって、安田さんは瞬きする間に居なくなっていた。
安田さんと、また会えるんだ。
その確証のない彼との約束は、安田さんが居なくなったという事実を少しだけ和らげてくれる。
これは永遠の別れではなく、少しばかり会えなくなるだけ。遠距離恋愛のようなものだから。
「未来で待ってる____」
なんて、宛先不明のメッセージが送られてきていたことに気づくのは、もう少しあとの話。
ｰendｰ
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作者名：さくら | 作成日時：2018年11月20日 18時
