＊麦わら帽子(青) ページ36
夢から覚めると心地の良い朝が私を待っていて。
あぁ、安田さんに返事してなかったな。なんて思いながらまだ少しだけ眠たいまぶたを擦ってスマホの画面を開くと、そこには昨夜まであったはずの安田さんとのトークルームが無くて。
間違って消しちゃったのかな、と思いながら頭をフル回転させるけどそんな記憶はひとつも見当たらなくて。
今日も暇だし安田さんのお店に行って謝ればいいか、なんて考えてゆっくりと彼のお店に行く準備を始める。
デートなんかじゃないし、今日はあまり気張らずにゆったりとした服に薄いメイクをすると、髪の毛をひとつに束ねて靴を履いて外に出る。
いつも見ているはずの玄関から見た世界は少しだけ、違って見えて不思議に思いながらも安田さんのお店に急ぐ。
彼のお店に着いた頃には日もかなり射してきていて、日焼け止めを雑に塗ったことを後悔し始めるけど、それよりも、理解ができないことがあった。
「…ない？」
何度見ても、彼のお店があった場所はたくさんの気が生い茂っていて。
その状況が全く飲み込めなくて何度も頬を引っ張る。
あれ、昨日まで私何してたんだっけ。
私はどこで安田さんと出会ったんだっけ。
「Aさん、」
そんな思考は今まさに考えていた彼の声でストップする。
「安田さん…」
少しだけ時間を開けて振り向くものなのかもしれない、本来は。
でも、頭がぐちゃぐちゃな私にはそんな余裕はなくて。
声が聞こえた瞬間に振り返れば、見慣れた彼の姿が目に入って安心する。
「びっくりしたやろ、ごめんなぁ」
へへ、なんて悪戯っぽく笑う安田さんは昨日見た彼そのもので。
なのに少しだけ違う人に見えるのは洋服が違うから、なんて理由ではないことは私が少し考えただけでも分かる。
「どういうことなんですか…？お店は…？」
なんで？安田さん？なんて、まるで子供のように安田さんに問いつめてしまう。
彼の目は少しだけ戸惑ったように揺れていて、何を思うのか少しだけ上を見あげた。
「…今から言うこと、信じられへんかもしれんけど」
全部聞いて欲しいな。なんて、優しく私の手を握って言われると拒否なんてできなくて。
静かに頷くと少しだけ暖かい空気に包まれた気がして、周りにモヤがかかったように、比喩でもなんでもなく二人の世界になった。
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作者名：さくら | 作成日時：2018年11月20日 18時
