まだ見ぬ地図～短編集～ (ページ32)

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次の日、楽しみにしていた朝はかなりあっさりと訪れた。
いつもと変わらない、なんてことない朝で少しだけ驚いたくらい。
昨日のワクワクや緊張は夢の中に置いてきたのか、一切なくて。
こういう所は、大人になったのかな。なんてしみじみと思う。

「あぁ～…」

なんて、他の人には聞かせられないくらいに気の抜けた声を出しながら伸びをしてふと、通知を表す光が点滅していることに気付く。

私が寝たあとに送ってくるなんて、珍しいな。なんて思いながらも画面を開けば、通知センターに「安田さん」の文字があって。

「明日起きられんくなったら困るからはよ寝りな！おやすみ！」

なんて、可愛い文章が送られてきていた。
あぁ、なんで寝ちゃったんだろう。

「すみません、寝ちゃってました…おはようございます」

朝の7時、待ち合わせは9時だから彼はもう起きている、と考えて返信する。
待ち合わせまであと2時間。家を出るまで後1時間半。

クローゼットを開けて洋服を確認した後に朝ごはんを食べて、歯を磨いて髪の毛をセットして。
最後にいつもよりかなり丁寧にメイクをした。

荷物の準備も整え終わった頃には少しだけ、昨日の夜のようにドキドキとする感覚が戻ってきていて。
時計を見ればバッチリ、待ち合わせの30分前だったからゆっくりと家を出る。

歩いて15分くらいの所にある安田さんのお店に着くまで、体感した時間は本当にあっという間で。
待ち合わせより少し早い時間に着いたのに、安田さんはもう待ってて、彼の姿が見えた瞬間少しだけ早歩きになった。

「あぁ！おはようございます～」

なんて、私が歩いてきていることに気付いた安田さんが笑顔で手を振ってくれる。
…こんな、幸せな一日の始まりをすごしてしまったら将来すごく悪いことが起こるんじゃないかって思うのは小さい頃からの癖。

「おはようございます、安田さん」

そう言って自分なりの精一杯の柔らかい笑顔を彼に向けると、少しだけ頬を赤くした安田さんがほな行きましょかぁ。と、昨日は気付かなかった建物の隣にある車庫を指さす。

「人の車、乗れます？」

「あ…はい」

「よかったぁ、拒否られたらどないしよう思っててん」

「拒否なんかするわけ、ないじゃないですか」

そんなことを言いながら2人で笑い合う。
なんだか、平凡な幸せって感じがして心が暖かくなった。