まだ見ぬ地図～短編集～ (ページ26)

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＊偶然の出会い(緑) ページ26

某牛丼屋で少し遅めの夕食を済ませてやっとお家に帰れる。なんてレジに向かう。

最近残業続きでろくな休みも取れてなくて、色んなことが疎かになってる気がするから、今度の休みは思いっきり休もう。
そんなことを考えながらお会計するために財布を探す。
が、どれだけ探しても私のバッグの中にはお金の気配がしない。

「…やらかした」

私は財布をどこかに忘れてきたらしい。
かなりやばい状況に置かれてるってことに気付いて身体中から変な汗が止まらない。
財布の中にカードも入ってるから、1文無しの今の私にはお店に対して払えるお金が1円もないわけで。

「あの…すみません」

お金取りに帰るので少しだけ時間をください。なんて惨めなセリフを言おうとした瞬間。
横から大きな背中が入り込んできて、すんません連れが。なんて言いながら店員さんに二人分のお金を支払う。

「ほんまにご迷惑おかけしました、ほな…行くぞ、」

なんて私の腕を掴んでお店の外まで引っ張っていくその人は、彼のものらしき車の前で立ち止まって乱暴に手を離す。
咄嗟に顔を見ると、私がこれまでであってきた中でも最上級なくらいに顔が整った同じくらいの年の男性で、その目はものすごく蔑んだものを見ているかのような、そんな目をしていた。

「お姉さんさ、ええ大人やろ。」

食い逃げしようとしてたん？なんていくらイケメンでも居心地が悪くなるような視線で私を見るから慌てて首を振る。

「あの、財布をどこかでなくしたみたいで…」

本当にごめんなさい、そしてありがとうございました。
なんて頭を下げれば、彼は信用してくれたのかふっと笑った。

「アホやな、お姉さん」

お姉さん、なんて言われるような歳が離れた感じはしないけどな。
なんて文句の一つや二つ言ってやりたい気持ちを堪える。

「あの、お金返したいので…」

すぐそこに家あるんで寄っていってください、なんてこんな夜遅くに言うことでもないかもしれないけど。
そんなことを言うと彼はまたふっと笑って、

「ええよそんくらい。」

俺そんなお金に困っとるように見える？なんて一言多い返事をしてくる。
あぁ、なんだかこの人とはあんまり仲良くなれないタイプだろうな。なんて直感で思う。

「んでもさ…お礼はしてもらわななぁ」

なんて少し上を見ながら言うから、なんでもどうぞ。なんて不貞腐れ気味に返してしまう。