＊満月(黒) ページ14
今夜は満月なんだと、朝のニュースで言っていたからなんとなく、近くのデパートの屋上に来てみた。
周りはカップルや家族連ればかりで少しだけ居心地が悪いけど、下に入ってるスーパーでお酒を数本だけ買って壁に寄りかかるようにして見る月は、確かにいつもと違ってまん丸で綺麗だった。
そんな綺麗な月を、肌の白い顔の整った知らない顔が遮って、
「すんません、ここ、座ってもええですか？」
なんて聞いてくる。
その綺麗な顔につい、どうぞ。と快諾してしまう。
「お姉さん、一人で来てはるんですか？」
「えぇ、まぁ。一緒に来る相手も居ないもんで」
なんて言うと、隣に腰を下ろした彼は驚いた顔をする。
綺麗なんに、と呟いた彼を横目に見て、ため息をつきながらまたお酒を飲む。
「全然なびかん感じなんや」
綺麗言うたのになんも嬉しそうやない、と笑いながら空を見上げるから、良かったらどうですか。と自分の持ってきたお酒を勧める。
「お言葉に甘えて1本いただきますね」
なんて聞きなれてない関西訛りのイントネーションで、ありがとうと言いながら私が1番飲みたかったものを選ぶ。
「あなたは結構ここに？」
「あ、俺横山て言います」
「あぁ…私はAです。」
あなた、と言ったのが気に食わなかったのか彼は質問に答える前に名前を名乗ってくる。
「俺毎月来るんですよ」
なんて遅れて返ってきた返事に、へぇ。と頷く。
じゃあ、毎月来たら会えるのかな。なんて浮かれたことを考える。
なんだかんだで横山さんを気に入ったようで、今日限りなのは寂しいな、なんて思ってたからいいことを聞いた気がした。
「自分が聞いたんにその返事なんやねん…まぁええや、Aさんは？」
なんて聞かれたから、
「私は初めて来ました。」
と素直に答えて、少しだけ考えて言葉を付け加える。
「でも、横山さん居るなら来月も来ようかなって。」
さっきまで、塩対応で興味無さそうだった私のこの言葉に、横山さんはえ？と聞き返しながら顔を赤くした。
「じゃあ来月もここで会えるってことですか？」
なんて聞き返してくるから頷いて、少しだけ微笑む。
あ、笑った。なんて呟きながら横山さんはお酒を飲み干して席を立つ。
「ほな、また来月会いましょ」
なんて言いながらゴミとお酒代の200円を置いて手を振りながら帰って行った。
その後ろ姿は大きくて、空の満月に照らされて、やっぱり綺麗だった。
-end-
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作者名：さくら | 作成日時：2018年11月20日 18時
