＊癒し処(橙) ページ11
嫌なことがあった時、話を聞いて欲しい時。
無意識にここに来てしまう。
[癒し処 まる]
仕事が終わったあとに、週に一回来るここはイケメン店主がいろんな手段で癒してくれる魔法のお店。
人通りの少ない場所にぽつんと一つだけある小さな建物の古びたドアを開けると、
「いらっしゃいませ…あ、Aさん！」
そろそろかなぁって思ってました、なんて店主が優しい笑顔で笑う。
「丸山さん、こんばんは」
私も釣られて、優しい笑顔で返す。
すると、うんうん、と頷いて1組分しかないソファに案内してくれる。
この店はいつ来ても私一人だ。
まるで、人が来る時間が被らないように魔法がかかっているように店の中に人がいる時は次の人は来ない。
「えと、本日は…悲しい感じではなさそうですよね？」
なんて少し関西訛りな敬語を使うところもまた日常で出会う人とは違ってなにか優しい雰囲気を醸し出してる。
「はい、今日は…あのコースで癒して欲しくて。」
少し顔を赤らめて言う私に、あぁ、と手を叩いて
「お身体癒しのコースですね！」
なんで大きな声で笑う。
それを言うのが恥ずかしくて「あの」って言ったんですけど。と少しだけ睨んでみると、怖い！と震えてみせる彼の顔を見て、また自然と微笑みが零れてくる。
「んじゃ、早速…ええですか？」
小さな机にカバンを置いてソファに座ると、丸山さんが隣に腰掛けてくる。
同意を表すように頷くと、丸山さんの手が私の腰に伸びる。
十数分後、何も音のしなかった室内に男女の甘い吐息だけが居心地よく響く。
「ほんまに、最近Aさんこればっかやないですか…」
変態さん、と丸山さんに微笑まれるとまた甘い声が口から漏れる。
「そんな所も、素敵だと思いますけどね」
と、語尾に力が入って2人が繋がる時間が終わる。
一時的に2人でひとつになった私達は再び1人ずつに戻る。
数分後、服を着て元通りになった姿で丸山さんの待つカウンターに向かうと、丸山さんはどうでしたぁ？と柔らかく笑う。
「丸山さんはほんとに、人を癒すのが上手ですね」
なんて言うと、丸山さんは嬉しそうに、
「Aさんも、僕を癒すのが上手です」
なんて優しく笑いかけられる。
その笑顔に釣られてしまっているから、多分私はまたこの場所に来ると思う。
「また来てくださいね」
と手を振ってお見送りをしてくれる丸山さんに背を向けて、私はまた現実に戻っていく。
-end-
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作者名：さくら | 作成日時：2018年11月20日 18時
