まだ見ぬ地図～短編集～ (ページ1)

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高校1年生が始まる、とある春の日。
東京の中学校を卒業して引っ越してきたこの大阪の高校の教室は、自分の気持ちが小さくなっていることもあってかとても広く感じた。

同じ中学校の友達なんて当然いるわけもなくて、だんだんとみんなが登校してきて埋まっていく教室にポツン、と一人で浮きまくっている。

学校からの課題なんてまだ出ていなくて、勉強をしようにもできないから机で寝てしまおうと思っていたその時、

「おい、お前。」

と、少しだけ高い、声変わりの途中のような声が聞こえてくる。誰かがまた友達を作ろうとしている。
それが男子でも女子でも、私を選んでくれていたらいいのに、なんて思いながらまた寂しくなる。

「無視なん？お前に言ってんねんけど。」

「え、私？」

少しキレ気味に、声の主は私の前に立っていた。
顔を確認すると、かなり美形で自分には釣り合わない、と直感で思う。
少し大きな声を彼が出したから、友達も居ないのにクラスの注目の的になってしまった。

「お前しかおらんやろ、見てみ、周り。」

誰か居る？とイヤミを言ってくる。
美形だったらなんでも言っていいと思うなよ、と顔を歪めると彼は少しだけ驚いた顔をする。

「俺にそんな顔するやつ初めて見た。」

「いや…あんたなんなの？」

「生意気なやつやな、まぁええや。俺は錦戸亮」

錦戸亮。
周りの女子がずっと噂していた名前。
かっこよくてなびかない感じが好き、だなんて言ってたっけ。

「俺になびかんやつ、探しててん。」

それにお前ちょうど1人やし。とまたイヤミを言われる。
かと思えば彼は私の前に座り、こっちを向く。

「友達にしたるわ。」

よろしくな、と握手を求めてくる彼の手を、握るのを躊躇う。
ここで仲良くなってしまったら、もっと周りの女子と仲良くなることは出来なくなるかもしれない。
そんな不安な思いが顔に出てたのか、彼は少しだけ眉を下げて

「女子のヤツらが怖いん？」

と、心配そうな声を出す。
そして、周りを見てから一言、

「こいつ、いじめたらお前ら知らんから。」

とだけ、独り言のように、でもクラス中に確実に響く声でそう言った。
そして、また握手を求めてきて、

「友達やったら、お前のこといつでも守ってやれるやん？」

と笑う。