波を蹴る。 ❪ 凪のあすから ❫ (ページ7)

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境の繋がりページ7

「あれ、Aちゃん？」

『潮留さん！』

「久しぶりだね。麗子さんは元気？
そのバケツ…ああ、塩水を。」

『はい。』

「僕も手伝うよ」

『ありがとうございます…』

潮留至さんは、おばあちゃんと一緒の海村の青年会の一人でよく仲良くさせてもらっている。

「Aちゃんも大変だね。ここから家までこんな力仕事なんて。」

『いえ。でもこうでもしないと…私もおばあちゃんも、また干からびちゃうので』

「前もそんなことがあったのかい」

『ええ、まぁ。その時は本当にどうなるかと…』

一度、おばあちゃんが家に帰るとエナが干からびて倒れてしまったことがあった。その時は焦って、私も正常でいられなかった。

あれから何度もおばあちゃんに塩水を適度に浴びることを要求しているが、聞く耳を持たない様子だった。

『ありがとうございます。すごく助かりました。』

「うん、じゃあまた困ったことがあったら言ってね」

手を振りながら、潮留さんの背が見えなくなるまで見ていた。
もう、日はくれていて夕日が海に浮かんでいた。海は橙色に染まっていて、波に揺られていた。

海風が漂っているのが分かる。

ふと、必死に背を走る先島くんの姿を思い出す。

『向井戸さん……無事だといいけど。』

〜〜

「地上の奴が海の人間に関わるな」

あの日から翌日、そんな先島くんの声が教室から聞こえた。

向井戸さんはどうやら昨日、見つかったらしい。

彼は、やはり地上の人をあまりよく思っていないように思う。転校初日からの態度を見て分かっていたつもりだったけれど。

HRの終わり頃、担任の先生がおふねひきをしないかとクラスに提案を申し出た。

おふねひきというのは、伝統のようなもので元々生贄を海神様に捧げるような儀式。今では海神様に感謝の意をこめて食べ物や米を捧げる儀式になっている。

「おふねひきぃ？」

「そういうのって大人がやるもんじゃないの？」

「大体、今年はやらないって聞いたんですけど」

「うーん、そうなんだけどねぇ。その代わりうちの学校でおふねひきっぽいことしようかなーって」

えー、というブーイングが多い中、先島くんは機嫌が悪そうに見えた。

「やりたい人ー？」

誰も声を上げないなか、一人だけ挙手をする者が出る。

「はい、じゃあ紡ね。」

それに続いて、向井戸さんも手を挙げ、またそれに続いて、海村の四人は立候補した。

一方でAは、手を挙げることもなくただ窓の外を目視していた。