波を蹴る。 ❪ 凪のあすから ❫ (ページ5)

今日:1 hit、昨日:6 hit、合計:1,231 hit

迷い人ページ5

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ある放課後、それは起きた。

「ねぇ」

「え？…うわぁっ」

後ろを振り返れば、女子大勢が向井戸さんを無理に連れ込んで見世物のように眺めている。

「わ、ほんとだ。光ってる〜」

「コンビニ弁当ののラップみたい」

本人たちは向井戸さんの顔を気にしてもいないみたいだけれども、向井戸さん本人はしどろもどろとしていた。

「あの……やめてください…！」

「何？ちょっとくらいいいじゃん」

「でも……」

「なにしてんの」

木原の登場に女子はあからさまに同様していた。
女子郡の拘束が緩まれたとき、向井戸さんは逃れようとしたのか、膝を机の角にぶつけてしまう。

「うっ」

ぷぎゅるるるるる

「えっ」

「お、おなら？」

「あ、まなか!!」

教室から出ていってしまった向井戸さんはもう姿が見えないほどになってしまっている。

『あの子の…』

既にちさきはいなくなっており、自身の荷物を持ったまま追いかけたようだ。

向井戸さんの鞄は取り残されているけれど、生憎今日中に会えるなんて思わないと思いつつ、Aの手には二つの鞄が握られていた。

〜〜

逢えてしまった。
比良平さんは何故か息を切らしていて、向井戸さんを探している様子だった。

『比良平さん。これ、あの子の』

「まなかの…。ありがとう…」

『どうかしたの』

「それが…本当にまなか、どこに行ったのか分からなくて、光や要には言ったんだけど……全然っ」

目の前のちさきは今にも泣きそうな顔をしていた。
“光や要”というのは比良平さんと常に一緒だった友達のことだろう。

そんなことよりも向井戸さんが消えたということに聞き捨てがならなかった。
なぜなら向井戸さんには当然エナがある。

海の人の肌に身に纏う薄いエナは決して万能ではなくて、日に当たりすぎたりすると乾いてしまう。そうすれば、たちまち活動が出来なくなってしまう。
地上の人で言う脱水症状のようなものだ。

そしてそれはAも例外ではない。

「まなかっ……」

そう言ってふらついた彼女の支えるべく腕を支えるが、彼女の体力は限界を迎えていた。

『比良平さん、エナが…！』

「ちさき!!」

遠くから声が近づいてきた。それは伊佐木くんと先島くんだった。二人もまた走っていて、向井戸さんを探しているのだろう。

「お前……」

「ちさき、エナが乾いてきてる…ほら、早く水に。」