大人の時間 * * * * * * ページ19
敵意剥き出しだったはずの殺し屋が手弄りを始めさせ、不安がっていた頃に、教室内一勢に笑い声に包まれた。
「な、何よ？！」
「何ビクビクしてんのさ。さっきまで殺すとか言ってたくせに。」
「なんか、普通の先生になっちまったな」
「もう、ビッチ姉さんなんて呼べないね」
と、彼女に対して威嚇を見せていた生徒たちが少し心を開いた。まさか、この先生が反省の色を見せてくれるだなんて思っても見なかったのだ。
「あ、あんたたち…」
「よくよく考えたら、先生に向かって失礼な呼び方だったよね」
「呼び方、変えなきゃね」
「じゃあ、ビッチ先生で」
「えっ、と…ビッチから離れてみない？ほら、気安くファーストネームでも…」
「でもビッチで定着しちゃったしなぁ」
「しっくりくるよ！」
「じゃあ、よろしくねビッチ先生！」
「きぃぃ！やっぱ嫌いよアンタたち！」
空気がさっきと一変するように変わった。
一時は大惨事だったものの、彼女がプライドを打ち破って私たちと向き合ってくれたおかげで私たちもビッチ先生に目を向けることがようやくできた。
ビッチ先生がクラスに馴染むまで時間はそこまで掛からなかった。
〜〜
その日の放課後にて。
「七峰さん！」
『茅野さん』
「カエデで良いってば！」
『でも』
彼女、茅野カエデは距離の詰め方がとても上手だと思う。
会話のテンポは弾ませるし、沈黙も生ませない。
だけどAは思う。
彼女、相手への距離を詰めるのがとても上手いが、どこか遠く感じる。どこかで踏みとどまっている気がする。
実際、今茅野はAに対して名前を呼ぶように要求するが、茅野自身はAのことを苗字呼びをする。
「あー、七峰さん“ワンた！”好きなの？」
彼女はAのボストン鞄にぶらさげられているキーホルダーのマスコットを指差しながら問う。
『好き、とまでは』
「へー！じゃあ七峰さんは犬派かぁ」
『んん、猫派』
「じゃあ、なんでつけてるの？七峰さん」
『Aで、いいわ』
「え」
『…私だけカエデなんて呼べないから』
ふ、踏み込みすぎただろうか。
ふと、勇気を振り絞ったつもりなのだが、突如不安になってきてしまう。
「ホント？！」
キラキラと大きい目を光らせながら、私の眼を覗く。
後ずさりしようにも固まってしまった。
そのすぐ後にAとカエデはカエデの提案によって、共に下校して行った。
見慣れないその二人組を見た者たちがただただ二人を凝視していた。
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作者名：綾鷹 | 作成日時：2022年8月25日 23時
