アミュレット (ページ3)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:2,310 hit

＊ページ3

(your side)

半年前から、大学で同じ専攻の女友達に誘われて入ったWebメディア。

競技クイズはまったくの管轄外だけど、自分の趣味や専攻のことを記事に出来て、それを問題形式にして世に出すっていうのも、意外と面白い。
既に記事は数本出していて、その記事の内容を買われ私をメンバーに入れた新たなWeb内企画を始めることになったらしい。

その打ち合わせのためにオフィスに出向く。
今までメールでのやり取りだけで校閲や連絡をしていたから、行くのは初めて。
その日の朝、その友人から、レポートで遅れるから先に行っててとの連絡が。

その連絡に思わず「えー」と声を洩らす。

場所は教えて貰ってるし、そんなに方向音痴ではない自負はあるけれど、初めましての人ばかりの空間に一人で入るのはやはりちょっと腰が引ける。

そんなことを考えながら手元のマップアプリを頼りにぼんやり歩いていたら、人気の少ないところへ入ってきてしまっていた。
マップ通りに来たからきっと合ってる筈だけど、ちょっと不安になる。

唯一目印となりそうな公園の前の道路脇に立ち、今の自分の場所を確認しようとマップを見ていたら、静かな路地に声が響いた。

驚いてそちらを振り返ると、その声の主は動画で何度となく見た男性だった。

「…あっ、河村さん、はじめまして」

見知った顔に思わずそう口にするけど、こちら側一方的な認識であることを思い出して言い直す。

「Aという名前でライターをやっております、打ち合わせで初めて伺うんですけど、合ってるのか不安で」

名前を口にすると、あぁ、と納得した表情をする。
記事はやたら出してるおかげか、名前は浸透しているのだろうか。

「ここを抜けた先のマンションなんですよ、最初結構分かり辛いですよね」

微笑みながら話す河村さんと、並んでオフィスへ向かう。

いまでも鮮明に憶えている。

公園の中のベンチの脇。やたら生き生きしている紫陽花に雨粒が滴っていた、7月のはじめ。

「一日だけ、僕とデートしてくれませんか」

久々にとった電話は、かつての彼からだった。