第196話 ページ7
─────
今日も今日とてグレンに会うことはなかった。そろそろ会っておかないと、とは思うものの、その姿を見かけることはなく、結局一度も会わずに時間は過ぎていく。
官舎に帰り寝室のベッドに座ると、どっと疲労がやって来て、そのまま仰向けに倒れた。
頭に浮かんだのは、「向こう」のこと。ずっとばたばたしていたから、軍に戻ってから考えるのは、これが初めてである。
「‥‥これで、良かったんだよね、“向こう”にとっては」
こうすると言ったとき、忍田さんは変に詮索せず、ただ一言だけ『死ぬんじゃないぞ』と言った。
城戸さんは何か言うかと思ったが『本部長の判断に任せる』と、それだけだった。もっと色々言われるかと説得材料を用意していたのに。だが組織の長として、市民の安全のための行動ならば反対しなかったのも頷ける。
結局、私という根本的な原因がなくなればすべて解決することだったのだ。
しかし気がかりなことが一つあった。迅さんのことである。
最終的には、何も言わずに出てきてしまったことになる。四年前私を見つけ、それから今まで何度も助けてくれたあの人の前から、黙って去ってしまった罪悪感。これでは、「あの時」と何も変わらないじゃないか。
「怒ってる‥‥よね、絶対」
なにか伝言の一つくらいは残してくるべきだったかもしれない、と今更後悔した。
───さて、そろそろ切り替えよう。
明後日からは小隊について任務に行けと言われている。腕は鈍っていないはずだから、明日のうちにその隊の人間に挨拶のひとつはしておくべきだろう。
《月鬼ノ組》がほぼ壊滅したということは、《月鬼ノ組》だった人間がその隊に組み込まれるとは考えにくい。私の指示にどの程度までついてこられるのか、息を合わせるくらいの多少の訓練は必要だ。
戻って数日なのに指揮官をしろと言うのは、中将が私を信頼しているからではなく、単に人で不足だからだろう。
「‥‥全然休めないじゃん」
思わずため息が漏れた。
少しは休ませてくれ、と思ったが、軍事組織にそんなこと求めてもしょうがないなと一人唸った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 119人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夏向(プロフ) - るい酸性さん» 読み返していただきありがとうございます！6は現在改変中でして、土曜日中に全体公開する予定なのでもうしばらくお待ちください！ (2023年2月11日 0時) (
レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
るい酸性(プロフ) - 久しぶりに読み返しました！6のパスワード教えて欲しいです！ (2023年2月10日 17時) (レス) @page49 id: 825df6404c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夏向 | 作成日時：2017年9月7日 19時
