Episode7 ページ9
花巻と別れ、駅のホームで電車を待っていた。
花巻の言った言葉が私の頭の中をぐるぐると回っていた。
イヤホンを装着し、好きな音楽を流す。
そういえばこの曲、兄におすすめされたんだっけ。
やっと来た電車に乗る。車内はガラガラで私は端の方の席に掛けた。
見慣れた車窓を眺める。空は赤く染まりつつあったが、まだ明るかった。
ふと携帯の写真フォルダを遡る。中学生の時の兄と私。まだこの時は今みたいにギクシャクしていなくて、ただ本当に、純粋に仲の良い双子だった。
ギクシャクさせたのは私なのに。
「まもなく〜…」
車掌さんのアナウンスがイヤホン越しに耳に入り、イヤホンを外してカバンにしまった。
最寄り駅で電車をおりる。夕方だからか、数名の学生も一緒におりたが、どうせ知り合いはほとんど居ない。
特に気にすることなく改札を抜ける。
「A！」
ふと後ろから名前を呼ばれ振り返る。
そこに居たのは兄だった。
『あれ…はじめちゃんと一緒に帰ったんじゃ……』
「俺用事あったから、岩ちゃん先帰ったんだよね」
下駄箱に靴はなかったはず………いや、見ていない。
上下なはずなのに何故見なかったんだろう。
そりゃいないと思ったら見ないか。
「Aはこんな時間まで何してたの？」
『えっと…勉強。学校残って勉強してた』
「そっか……」
なんとなく気まずい空気になってしまった。私があんなことを考えていたからだろうか。
どことなく、兄は全部わかっているんじゃないかとも思った。
『帰ろっか、寒いし』
「そうだね、早く帰ろう」
2人で帰路につく。部活の時以外では珍しい。
兄と2人で歩くと目立つし、なんとなく女の子から嫌な目線が送られているような気がする。
ただ、彼の双子の兄妹として生まれただけなのに。
「俺さっき電車でね、」
兄は携帯の画面に指を滑らせ、こちらに画面を見せた。
そこに映っていたのは、先程私が見ていた写真と同じ、仲良さそうにする私と兄の姿だった。
『それ……』
「久々に写真見返したらこれ見つけてね、懐かしいな〜って思って！」
そう言った兄の表情はとても明るかった。
もしかすると兄も……徹も、あの頃のようになりたいと思ってくれているのかもしれない。
『懐かしいね』
「でしょ！これ中2かな、3かな〜」
そう言いながら他の写真も見返す徹。
私が口を開かなければ、思いを伝えなければ、きっと元には戻れない。
ねえ徹、私ね……
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作者名：泡姫 | 作成日時：2024年2月26日 17時
