Episode4 ページ6
『国見じゃん…珍しいね』
「Aさんこそ、こんなとこで何してるんですか」
国見はそう言いながら、私とだいぶ間を空けて隣に座った。そして塩キャラメルを1粒口に放り込んだ。
『私はいつもここでご飯食べてるの』
お弁当を食べながらそう言うと、国見はふぅん…と返した。
「てっきり岩泉さんたちと一緒かと」
『前はそうだった。でも最近は違うかな。色々あるの、私にも』
「やっぱりなんか言われたりするんですか」
国見はいつも痛いところをついてくる。
偶然なのか狙っているのか、その辺はよく分からない。
『そりゃあね、2人とも人気だし。松川も花巻も一部女子には結構人気なんだよ』
「知ってますよ。よく「俺たちだって…」って言ってますから」
『あぁ言ってそう』
乾いた笑いと共にお弁当の最後の一口を口に放り込む。
空いたお弁当箱を閉めていると、再び国見が口を開いた。
「Aさん、怪我してたんすね」
国見が知るはずのないことを言われ、思わず手を止めてしまった。
「同じクラスに北一の女バレ出身の奴いて、聞きました。2年の冬に怪我して、最後の大会無理やり出たけどボロボロだったって」
私は何も言えず、固まったままだった。
事実を並べられてしまっては私も言い訳ができない。
「腕は部内トップクラスだったらしいですね。スポ推で青城行けるって言われてたんですよね」
『……まぁ、ね…』
私はゆっくりと動き出した。
喋ったやつ誰だよ、なんて思いながらお弁当箱を片付けた。
「Aさんがバレー辞めたのって、及川さんのせいなんじゃないですか？」
沈黙が続いた。答えられなかった。事実だったから。
でも決して兄が悪いわけじゃない。
私が一方的に嫉妬して、適当な理由つけて辞めたんだ。
『そうだって言ったら………国見は軽蔑する？』
「いいえ、人の才能を羨むのは人間の性ですから。俺も影山みたいのが血の繋がった人間ならもう辞めてますね。他人だから耐えられる、そんなもんじゃないですか」
国見は良い奴だ。やる気はあまり無いがバレーに対する情熱はあるし、秘密は守るし、率直な意見を述べてくれる。
今話した人間が国見で良かったとすら思えた。
『ほら、もうチャイム鳴るよ。早く戻りな』
私が立ち上がると、国見もだるそうに立ち上がり、軽く会釈をして自分の教室の方へ戻っていった。
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作者名：泡姫 | 作成日時：2024年2月26日 17時
