Episode2 ページ4
朝練は順調に進んだ。
それもこれもはじめくんのおかげだろう。
厄介な後輩たちみんな、はじめくんの言うことはちゃんと聞く。本当に兄が主将で良かったのか未だに疑問だ。
「すみません、テーピング頼んでもいいですか」
『おっ！おまかせあれ！』
朝練終了間際、国見が声をかけてきた。
私は救急箱からテーピングを取り出し、差し出された国見の指に巻き始めた。
「及川さん……Aさんも、バレーやってましたよね？」
突然国見がそう言った。
私は少し動揺しつつも、何も無いかのように接した。
『うん、ちょっとだけね〜』
「俺、試合見たことあるんです。上手いのになんで辞めたんですか？」
私は答えられなかった。
兄に劣等感を抱いてしまったからなんて言えるわけがなかった。
『上手くないよ。ただ私には向いてなかったの』
そう言ってテーピングを巻き終え、ハサミで切った。
『はい、出来上がり。ダウン始まるから行ってきな！』
私はそう言って国見の背中を押し、救急箱を片付けた。
劣等感という感情一つで好きだったことを辞めてしまうなんて、と思われるかもしれない。そう思ったら何も言えなかった。
『情けないな…』
私はそう呟いて自嘲気味に笑った。
「お疲れ様でした！」という部員の声が響き、朝練が終了したことに気付いた。
私も荷物をまとめて立ち上がった。
「着替えてくるから待ってて！」
兄はそう言って、私が返す間もなく駆けて行った。
私は大人しく運動部の男子更衣室のそばで待つことにした。
何となく携帯の画面に指を滑らせる。
ふと国見に言われた言葉が頭に浮かんだ。
「なんで辞めたんですか」
まさか聞かれると思っていなかった。
北一の後輩で私がバレー部だったことを知ってる人なんてそんなに居ないと思っていた。ましてやここは男子バレー部。私の試合を見たことある人なんて、と甘く見ていたのかもしれない。
いくら理由があれでも、ちゃんと答えられずに誤魔化してしまった自分に腹が立った。
「お待たせ！教室行こっか！」
『うん、ホームルーム始まっちゃうし急がないと』
私は兄の斜め後ろを歩く。
劣等感を抱いてしまった以上、隣を歩く資格はないし、隣なんて歩けるわけが無い。
兄は少し不思議そうな表情をする時もあったけれど、私は見て見ぬふりをした。
「さっき岩ちゃんがね〜」
「マッキーがさ！」
「それに金田一が…」
楽しそうに話す兄を見ているのもしんどく思えた。
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作者名：泡姫 | 作成日時：2024年2月26日 17時
