Episode1 ページ3
兄はいつも早起きだ。
兄は朝練の有無に関わらず、雨が降っていない日は必ず私の起きる時間より早く起きて20分程度のランニングをする。
「あ、おはよ！」
『……おはよ…』
私が丁度起きる頃に帰ってくる。
高校3年間、ずっと変わらない。
「今日天気悪かったから雨降るかも。脚は平気？」
『ちょっと痛むけど平気。傘持って行こうね』
「うん！」
兄は頷いてシャワーを浴びに行った。
兄がシャワーに入った頃を見計らい、私は洗面台で顔を洗い、歯を磨く。
「A？タオル取って〜」
『ん〜』
浴室から伸びる手に、歯磨きをしながらタオルを手渡す。
「ありがとう〜」と緩く言う兄に私も何となく返事して、歯磨きを済ませた。
洗面所を出て部屋に戻る。朝練のあるない関係なく、朝はいつも制服を普通に着る。勿論部活のことがあるからジャージは持って行くのだが。
『徹、どうせブレザー着ないでしょ。貸してよ』
着替えているであろう兄の部屋を突撃する。
案の定兄はジャージに袖を通していた。
「今日寒いもんね！ちゃんと暖かくしてね！」
兄はそう言って笑い、私にブレザーを差し出した。
私は兄から受け取るなり、自分のブレザーの上からさらに兄のブレザーを羽織った。
動きにくいが暖かいのでオールオッケー。
『シャツ持った？ズボンは？ネクタイもちゃんと持ってね』
「平気だって！俺を誰だと思ってるのさ！」
『徹は徹でしょ。支度終わったなら行くよ』
私がそう言って部屋を出ると、兄も慌てて着いてくる。
ローファーを履き、玄関を開ける。
『さっむ……マフラー持ってこよ…』
「もう！暖かくしなって言ったでしょ！」
そう言って兄は私のマフラーを首に巻いてくれた。
『ありがとう…』
「どういたしまして！ほら行くよ！」
兄は私の少し先を歩いた。
彼はいつの間にこんなに大きくなったのだろうか、なんてつい考えてしまった。
「雪、降るかな…」
『まだ降らないよ。でももうすぐ降るかもね』
「そっか、まだ秋だもんね」
2人で秋の晴れた空を見上げる。
「A、髪伸びたね」
『そうかもね』
願掛けで伸ばし続けた髪。
もう下ろしたら腰にかかるほどになった。
兄とまた笑ってバレーが出来る日が来るようにと願い続けてもう3年。いつになったら来るのだろうか。
「俺はAの長い髪好きだよ。短いのも可愛かったけど」
『そりゃどうも』
でもそんな理由で伸ばしてるなんて、兄には言えない。
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作者名：泡姫 | 作成日時：2024年2月26日 17時
