苦い【4】 ページ5
今日は生徒会の雑務が長引き、いつもより帰りが遅くなってしまった。
けれどあのお店のマカロンは食べたい。昨日は定休日で食べれなかったし。
そう思い、仕方なく制服のまま髪だけを下ろしてお店に訪れた。
そうだ、今日はバレー部の活動時間長い日だ。
よかった。灰羽くんは帰ってない。
帰ってくる前に食べて帰ろう。
「いらっしゃ〜い！」
このお店のご家族は皆さんいつも明るく声をかけてくれる。今日はお姉さんがお店番をしていた。たまに見かけるのだけれど、本当に綺麗な人だなと女の私でも見惚れてしまいそうになる。
「あら！その制服、音駒高校ね！」
私がショーケースまで辿り着くとお姉さんはそう声をかけてきた。
『はい！うちここから10分くらい歩いた先なんで！』
実はご近所なんです、と笑うとお姉さんも「そうなのね！」と笑ってくれた。
『今日はフランボワーズと…ピスタチオを下さい！』
と注文すると、にこにこと笑ってお姉さんはその2つをお皿に出した。
「実は夏の新作を作ることになってね、試作してるところなの！よかったら感想聞かせてちょうだい！」
そう言って普段見ないマカロンを1つ、お皿の上に追加した。それは鮮やかな青色だった。
会計を済ませ、いつもの席に腰掛ける。
お姉さんは私に紅茶を淹れて出してくれた。
「これとっても美味しいの。きっとマカロンに合うわ！」
と言って、また中の方へ戻ってしまった。
ありがとうございます、とお姉さんの背に声をかけ紅茶を一口飲むと、香りが口の中めいっぱい広がり、思わず微笑んでしまうほどの美味しさだった。
気付けばマカロンは試作品と言われた1つが残った状態だった。
外はもう暗くなり始め、ぽつぽつと雨が降り出していた。少しゆっくりしすぎた。
新作のマカロンはショコラミントだった。
ミントの爽やかな香りに、甘いショコラがよく合っていた。口の中に夏の訪れを感じた。
『ごちそうさまでした…』
「ただいま〜」
私が手を合わせると人が入ってきた。
「えっ…」
『あっ…』
それは灰羽くんだった。
いけない。今日は制服だった。
私は慌てて荷物をまとめ、逃げるようにお店を出ていき、雨の中を走った。とにかく走った。
ーー
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作者名：泡姫 | 作成日時：2021年9月8日 20時
