第32話 ページ7
「A、心配なのは分かるけどちゃんと食べなきゃ」
私はこの家に戻ってから数日の間、食事が喉を通らずにいた。
私の元気が無いせいか、日向さんと灰羽さんまで元気を無くしているように見えた。
黒尾さん達が戻ってこないままもう2日が経つ。
もしかしたらこのまま戻ってこないかもしれないと思ったら、むしろ吐き気がしてくる。
あの人たちが居なくなるくらいなら、私が居なくなればよかった。
「A、嘘でもそんなこと考えないで」
私をじっと見つめていた灰羽さんが急に言葉を発した。
「なに、どういうこと」
「Aが今、黒尾さんたちが居なくなるなら自分が居なくなればよかったって考えてたからつい…」
問いかけた月島さんに灰羽さんは答える。
あぁ、そっか、この人心の中が読めるんだっけ。
気軽に考え事してられないな。
そんなことを考えていると、赤葦さんは私の頬を叩いた。
「赤葦さん…！」
「あの人たちがどんな思いでAのことを探してたと思ってんの」
止めようとする日向さんの言葉を遮って赤葦さんは怒っていた。私は赤葦さんの顔を見れなかった。
「俺だって、心配で堪んないんだよ…」
赤葦さんはそう言って一粒の涙をこぼした。
私は初めて見た。赤葦さんの涙も、辛そうな表情も。
「けど、今俺にできるのはAを守ることと、ここで待つことだけだから…」
そう言いながら赤葦さんはその場にしゃがみこんでしまった。
私はソファから起き上がり、ゆっくりと赤葦さんの目の前に座った。
『こっち、向いてください』
顔を上げた赤葦さんの涙を指先で拭う。
「A…？」
『赤葦さんの辛いの、私に分けてください。辛い時はお互い様ですから…』
そう言って私は赤葦さんにぎゅっと抱きついた。
赤葦さんもそっと私を抱き締め返してくれた。
「叩いたりしてごめん…」
『いいえ、怒ってくれてありがとうございます』
そう言って2人で笑うと、灰羽さんや日向さんまで抱きついてきた。月島さんは来なかったが、すぐそばでそんな私たちを見つめていた。
『黒尾さんたち、いつ戻りますかね』
「出来るだけ早くとは言っていたけれど、どうだろう」
「あの人たちなら大丈夫デショ」
その日、私は戻ってきてから初めてちゃんとした食事を取った。久々に何かを食べるっていう動作をしたからか、あまり多くは食べられなかったけれど、いつもよりもずっ美味しく感じた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 30人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泡姫(プロフ) - こけしさん» コメントありがとうございます！！そう言っていただけて嬉しいです！これからもよろしくお願いします！！ (2021年10月3日 10時) (
レス) id: 8284d2d1b5 (このIDを非表示/違反報告)
こけし - とてもおしもろいです❗️大好きです！！ (2021年10月3日 6時) (レス) @page8 id: 5e5d783793 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泡姫 | 作成日時：2021年9月26日 19時
