『実.況.者』もう一度貴方に。『ky』 (ページ11)

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9話ページ11

少し挨拶をしようとリビングの扉を開けて私は思わず固まってしまった。

まさかこうも早く拓也に会うとは思っていなかった。

しかも自分の家で。

確かに会いたいとは思っていたけれど。

心の準備というものがあったし向こうは私の事なんてきっと忘れている。

だって彼にとっては15年も前の出来事だ。

高校生になっていろいろな恋愛をしただろうし中学生の一時期だけ付き合って勝手に死んでしまった人間なんて覚えていないだろう。

多分。

しかも今の私は全く接点のない人間だ。

強いていえば『友達の妹』。

…自分で考えていて涙が出そうだ。

私を愛してくれていた彼がが私の事を知らないなんて。

あぁ考えていてもきりがないね。

とりあえず今は何も知らないただの『香坂A』になろう。

もし彼と打ち解けられたり出来たのならその時にそれとなく聞いてみようかな。

ある程度考えがまとまりそうな所でレト兄に声をかけられる。

レ「ちょっと？どないしたん？」

夢「…ふぇ？あ、あぁなんでもない」

私は咄嗟に誤魔化した。

前世の恋人を目の前にして頭が混乱していたなんて言えない。

私が答えるとレト兄は少し悲しそうな顔をした。

ごめんね。

今は話せないんだ。

フ「ね、ねぇレトさん。その子どちら様？もしかして彼女？」

いきなり奥にいた黒髪で前髪が少し長い男性が口を開いた。

レ「ちゃうよ。俺の妹」

夢「は、初めまして！妹の香坂Aと申します！」

レト兄が紹介してくれたので私は軽く自己紹介をする。

少し緊張してぎこちない笑みになってしまったかもしれない。

私が名前を言うと先程口を開いた男性と拓也が反応を示した。

…あれ？

拓也はまだわかるけどあの男性がなんで…

同じ名前の知り合いがいるのかな？

キ「…A」

拓也が私の名前を呼ぶ。

なぜかその声は憂いを帯びていた。

どうして。

どうしてそんな悲しそうな声で私を呼ぶの。

そんなのまるで…

ずっと忘れられなかったみたいじゃない。