9話 ページ10
「は、ぁ…？」
悪気もなく出た、そんな言葉。
「い、いやいや、落ち着いてくださ「落ち着いてます」」
遮られ、さすがに私も戸惑う。
ここまで優しい彼が、こんな悪ふざけをするようには思えない。
でも、でもだ。
恥ずかしながら生まれてこの方、"恋人"という存在が出来たことがない。
もちろん、告白されたことも。
焦りに焦って、答えることができない。心臓はバクバクとスピードを増し、彼に聞こえてしまうのではないかと不安になる。
"い、いや〜…あはは"と、言葉を濁し続ける。痺れを切らした彼が口を開いた。
「…返事は、今じゃなくていいです。」
ほっ、とため息をつく。"安心"から出た、反射的なため息。
「でも、俺んち来ませんか」
それは、彼のこの一言で打ち消された。
「さ、さすがに見ず知らずの男性のお家は…！」
「ここまでして、見ず知らずなんて言うんですか…？」
一瞬、悪戯を企む時の子供のような、そんな表情をした彼は、瞬く間に子犬のような目をする。
うっ…そんな目を向けられたら断れるはずもない。
「…はい、わかりました」
答えた瞬間、まるで新しいおもちゃを貰ったかのように表情を変える彼。…犬だ。
「やった、じゃあ行きましょう！」
パシッと腕を掴まれそのまま駆け出す。おそらく家に向かっているのだろう。
普通なら警戒しなければならないであろうこの状況でも、この人なら大丈夫な気がした。
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作者名：なえ | 作成日時：2017年9月14日 17時
