ねえ、お願い。【歌い手】 (ページ21)

今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:4,622 hit

20話ページ21

「…ごめんね、Aちゃん、ほんとにごめん」

暖かな春の匂いが心をくすぐる。
この季節のこの匂いは、大好きだ。

母の死から大分経ち、やっと学校に通えるようにまで回復した私は、いつものように先生と帰路についた。

その日のことだった。

「へ、せ、んせ、うそ…っ」

「でっでもさ、先生と暮らすのはっ「それも出来ない」」

「え…？」

"先生、結婚する。引っ越す。ごめん、"

望みが、光が消えた気がした。
本当に真っ暗な中に放り出された気がした。

「ごめん、だからもう「嘘だ」」

確かに。
確かに最近、先生は帰りが遅くなることが多くなった。でも、でも私を捨てるなんて

嘘だ

「先生、じゃあ私はどうすればいいの…？」

「Aちゃんは、養子として新しい家庭で暮らしてもらう。」

「ねえ、待って、そんなの嫌だよ先生」

タダでさえ病み上がりな私なのに、新しいお母さん…？お父さん…？
そんなの耐えられるわけないじゃん…！

「新しい家族は先生が決めた。ちゃんと、Aちゃんを受け入れてくれる優しい家庭だよ」

こんな状況では、先生の言葉なんて聞く気にもなれなかった。

年頃の女の子だから、と先生が用意してくれた自室にこもり、声を押し殺して泣いた。

ねえ、どうして

どうしていっちゃうの、かあさん

わたし、わたし、

.

.

つらいよ