6話 ページ7
○○駅〜○○駅〜
いつもの何気ないアナウンス。
それでも今は、光が指したような、そんな気分だった。
ふと思い出し顔を上げると、男性がしっかりと痴漢男性の腕を掴んでいる。そしてこちらを見やると、
「着きましたんで、降りましょう」
と、軽く一言。
私へ向けるその笑顔はとても綺麗で妖艶なのに、スッと痴漢男性へ視線を戻すと獣のような目つきに変わった気がした。
でも、男性の言葉で立ち上がろうとする私の体は、先程の衝撃により上手く動いてくれない。
いけない、これでは次の駅に行ってしまう。寝過ごしたも同然だ。それだけは絶対に避けたい。
「ん、っふ…はあ…」
なんとか踏ん張りながら立ち上がろうとすると、どうしてもこんな声が漏れてしまう自分が憎い。
すると異変に気づいた男性が振り向き、手を差し伸べてくれる。
「あ、りがとうございます…」
差し出された手のひらに、そっと自分の手を重ねる。すると男性は確かめるように握りしめてくれた。
それが妙に安心して、彼のエスコートのおかげもあり思いのほかすぐに立ち上がることができた。
電車を出る。男性を挟んですぐ向こうに痴漢男性。なんとも言えない光景だ。
少し怖くて、男性の手をきゅっと握り返してみる。すれば、「ん?大丈夫ですか?」と、優しい声。
「ちょ、っと、怖くて」
「大丈夫ですよ、絶対コイツの腕離しませんから」
「…はい」
そのまま3人で近くにいた警察の元へ。日本の警察は優秀だ。すぐに対処してくれた。
しかしこんなこと電車通勤になってから初めての出来事で、今も少し震えてしまう。
「ちょっと座って休憩しましょう、疲れてるでしょうし。」
そう言ってふんわりと優しく笑う彼に、思わず見惚れてしまう。
休憩スペースで彼と隣同士に腰掛ける。
同時に、零れる涙。なんでだ、もう終わったのに。
ほらまた、彼を困らせてしまう。
でも予想とは違って、彼の大きい手がゆっくりと私の背中をさする。
どうしようもなく安心してしまい、ボロボロと止まらない涙。
「あぅっ…ひっ……ごめ、なさっ…」
「謝らないでください、大丈夫ですよ。」
そっと抱きしめてくれた彼の服を、弱々しく掴んだ。
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作者名:なえ | 作成日時:2017年9月14日 17時