#229《賢い》 ページ39
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公園のベンチで母と少年は座っていた。
「ねぇ、もし父さんや母さんが死んでしまったらAはどうする?」
母と少年の隙間はなく、ぴったりとお互いの体温が伝わる。
「とうさんとかあさんよりも強いの?」
「そうよ、父さんも母さんも適わない強い“白鳩”」
現在の時刻はお昼の12時、平日なので学校に通っているヒトの子は居らず二人しか居ない。
「そしたら鳥の丸焼きにして喰べる」
前に通り道で見たテレビで鳥の丸焼きを作っていた料理番組が流れていた。通常の“喰種”なら“白鳩”と言えば「喰種対策局」が思い浮かぶが、まだ理解が出来ないAは空を飛ぶ鳥を想像していた。
「ふふっ、貴方は昔の父さんにそっくり」
普段無表情の母の顔は笑みを浮かべ、Aの頭を撫でる。何がおかしいのか分からずキョトリとした顔で訊く。
「?、とうさんも言ってたの?」
「ええ、父さんも言っていたわ」
「さて行きましょうか」と言う言葉を合図に立ち上がる。
Aは歳に似合わず賢かった。
怪しまれる前に引っ越したが、引っ越し先はフレンドリーなのか疑い深いのか料理を振る舞ってくれた。
固形物を食べられる歳だったので当たり前にAの目の前に並べられた時は、父は内心焦っていたが母はこの子なら大丈夫という確信があった。
箸を出されなかったのが唯一の救いで、父や母はもしもの時にと練習していたので難無く使えたが、問題は食事が喉に通るか。
もしAが吐いても言い訳ならいくつも思い浮かぶのでニコニコと笑いながら父は“喰種”の毒である食事を口にしていた。
Aはジッと並べられた食事を見ていたが、出してくれた主婦が疑い出したのを知ってか知らずか目の前のニンジンをフォークに刺し、口にした。
「すごいおいしいよ!!」
数回噛むと顔を綻ばせ、怪しんだ主婦に感想を言った。当時の歳なら詳しい感想を求めても仕方がないのでその言葉で主婦の顔も笑顔になり、一家の危機は免れた。
ご馳走になった主婦の家を出ると近くの公園のトイレに駆け込み、食べた物を全て吐いた。
毒であるヒトの食べ物を口にして顔を青ざめている両親に顔を向け、Aは微笑んだ。
「とうさんとかあさんがいなくなっても
おれ、生きていけるよ」
両親はこんなに早く自立している息子になぜか悲しくなった。
その週間後、母の身体にもうひとつ生命が誕生した事を知る。
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水無月(プロフ) - 乾さん» 今更になってしまいますがありがとうございます!一時期題名が落ち着かない時がありましたが最後まで読んでいただきありがとうございました!! (2018年8月10日 23時) (レス) id: 07c7ef19ca (このIDを非表示/違反報告)
乾 - 完結おめでとうございます!!この作品は、名前が何度か変わっていましたがそんな連載当時から好きでした。素敵な作品をありがとうございました (2018年7月2日 18時) (レス) id: de2fb18392 (このIDを非表示/違反報告)
水無月(プロフ) - 瑠伊さん» ありがとうございます!素敵と言ってもらえてとても嬉しいです!! (2018年4月24日 19時) (レス) id: 07c7ef19ca (このIDを非表示/違反報告)
水無月(プロフ) - 慶さん» ありがとうございます!面白いと感じてもらえてとても嬉しいです!! (2018年4月24日 19時) (レス) id: 07c7ef19ca (このIDを非表示/違反報告)
水無月(プロフ) - 宮野 ミヤさん» ありがとうございます!気に入ってもらえとても嬉しいです!! (2018年4月24日 19時) (レス) id: 07c7ef19ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水無月 | 作成日時:2017年12月27日 18時