これをきっと恋と呼ぶ【轟焦凍】 (ページ48)

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2年前の高校一年生の秋、繁華街に用事があり出かけた先で彼女は自分と蓮に容姿が似た男に出会った。
自分より6歳ほど年上の彼は、蓮の生写しかと思ってしまうほどに自分たちによく似ていた。

似たもの同士が惹かれあってしまうように、顔が似た彼女たちも惹かれった。

「何回か会ううちに楽しくなっちゃってね、それで体を重ねたの。成り行きみたいなやつ。」

初めて、そんなものに価値を見出せなくて、いとも簡単に彼女は男に体を開いた。
だけど、それはあまり気持ちいいと思えるものではなくむしろ嫌悪感を抱いてしまうほどだった。

ああ、そうか。
彼が私と同じ顔をしているからだ。

そう考えるたびに彼は私に見えてきた。やっぱり嫌いだこんな顔。兄じゃなくて私が死ねばよかったのだ。

「幸せだったの、焦凍に抱かれた時」

好きな人に抱かれるというものは、こんなにも幸せで、涙が流れてしまうぐらい優しい気持ちになれることを彼女は初めて知った。

彼女たちは恋人なんて関係性じゃなかった。
だけど確かに気持ちだけは通じ合っていたのだ、それだけは決して揺るがない事実。

「私は、あなたに出会えて幸せよ」

ぐしゃぐしゃに濡れた顔で彼女は泣いていた。だけど存外幸せそうだったのだ。
彼女は心の底から、幸せだと叫んでいた。

あれほどまでにわからないと嘆いていた人の幸せというものを知って、彼女は嬉しそうだった。
焦凍からすればそれだけで十分だった。彼女を救ってあげられた気がしたのだ。

幸せなんてものは人それぞれだとみんな知っていること。Aの幸せは人生で焦凍に出会えたことだった。

「俺も幸せだ」

そう目の淵の涙を人差し指で拭う焦凍にAは軽く口付けを交わした。とても短くて、触れたか触れていないか、そんな判断が必要なぐらいの口付けだった。
2人で涙を拭いあって、Aが焦凍を寮まで送り焦凍は「また明日」と声をかけた。

「うん、またね」

そう言ったのを最後に焦凍がAの姿を見ることは叶わなかった。