Until I hear your name (ページ33)

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「あれ、逃げられちゃった？」

お冷を2つ持ってきた彼女がそう言う。

俺の事を見透かすような発言が引っかかった。

黒「逃げられちゃった。」

「ホストって大変なんだね。」

黒「そーそー...ってえ？俺のこと知ってたの？」

「そりゃあんなでかい看板に載ってたらねぇ。」

まあたしかに。ここからの帰り道にあるもんな。

じゃあ俺を介抱した時もホストだってわかってたんだ。

黒「なーんか、見透かされてるような気がするんだけど。」

「なにそれ。笑ご注文どうします？」

黒「...お姉さんって言ったらどうする？」

こんなくさい言葉、仕事以外使わないのに。

この読めない女の子がどんな反応するのか気になったのもあるけど、それよりさっきから俺より上の立場で喋るような調子が少し気に食わなかったのもあると思う。

「寂しさを紛らわすためにそんなこと言っちゃだめ。」

まつ毛を伏せながらそう言う彼女。

なんでだろ、つい目が離せなくなった。

俺より年下のはずなのに、大人のような表情を見せるから。

「コウキくん、寂しいんでしょ？
じゃなきゃあんな顔しないもんね。」

黒「あんな顔？」

「酔って寝ちゃって、私にすがりついてきた時、

＂置いてかないで＂ってちょっと泣いてたんだよ。」

誰に対してそう思っていたのか、すぐ分かった。

俺ってもしかして案外引きずるタイプなのかも。

図星をつかれて得意な愛想笑いもできず、何も言えないでいる俺の頭を、彼女は荒く撫でた。

「ま、お互い寂しさ紛らわすにはちょうどいいかもね。

もうちょっとで上がるから、一緒に飲もっか。」

ふふふ、といたずらっぽく笑った彼女はそのまま厨房に戻って行ってしまった。

お冷の氷がカラン、と音を立てたけど、

俺の耳には届かなかった。

それより俺の心臓の音の方が大きかったから。