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「伊野尾ちゃん……だいじょうぶ?」
からんころんと涼しげな音を鳴らして店内に入ると、俺の涙に気づいて眉を下げた山田がすぐに駆け寄ってきてくれた。
「あぁもうそんなに目擦らないで、腫れちゃうよ?」
ぽんぽんと背中を優しく叩くリズムにまた涙が溢れ出すと、目の前にことんとコーヒーが置かれる。
「なにかだいちゃんに言われたの?」
上手く息が吸えない。
まるで、呼吸の仕方を忘れたみたいだった。
「…だいちゃ……っ、おれのこと、好きじゃないって……っ」
「…そっか、だいじょうぶ……じゃないよね。」
いつから山田ってこんなに優しかったっけ? イケメンでこんな優しいならモテんだろうな……
……あぁ、もっと他のこと考えなきゃ。
だいちゃんの声が、手が、笑顔が、頭の中に入り込まないように。
「……伊野尾ちゃん、今日は帰りなよ。俺送ってくから。」
「…でも、……おみせ……」
「どうせ誰も来ないし。……しかも、こんな号泣してる店員いても、ね?」
「……うん、…ありがと。」
よし、と笑った山田が軽くおれの頭を叩いて立ち上がる。
山田の用意してくれたコーヒーを飲むとなんだか落ち着いて、感謝の気持ちでいっぱいになる。
だけど、だいちゃんがくれた胸の痛みは塗り替えられることはなく、ずっと残っていた。
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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年6月28日 21時