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「……いのちゃん、に、用があって。少し、時間あるかな?」

「う、うん! 山田、ちょっと抜けるね。」



エプロンを脱いでお店の外に出る。

くしゃくしゃと悩ましげに頭をまぜて、ため息をついてから口を開いた。



「……忘れてほしいんだ、ぜんぶ。」

「………………へ?」


ばかみたいに間抜けな声を出すと、だいちゃんが優しく笑って首をかしげた。



「聞こえなかった? いままで言ったこと、忘れてほしいんだ。ごめんね。」

「いままで、言ったこと……?」


だいちゃんの笑顔が、おれに呆れているようにも、なにかに悲しんでいるようにも見えて、戸惑う。



ねえ、だいちゃん

いままで言ったことって、なんなの?



「もう、好きじゃないんだよ、いのちゃんのこと。」

「え、……?」

「……このかと、付き合うことになったんだ。」



……は?


なにがどうして、そうなるの。


なにか言葉を発したいのに、喉が、体が痺れたようで、なにも言えない。

確かに、最近ふたりが一緒にいるって、知念くんも言ってたけど。

だけど、この前の夏祭りのときは、好きだって、キスもしてくれた、のに。



「……最後に、なんか言いたいことは?」

「………っない、」


でも、感情の移り変わりは誰にも変えられないっていうし。

だいちゃんが軽い人だって、わかってよかったじゃん…………なんて、思えないよ。





熱くなる目元を隠すように下を向いた。

告白もしてないのにフラれるとか、だっせぇ。




「……わかった、ばいばい。」

「、いのちゃん……」


背中を向けると、悩ましげに絞り出された声が追いかけてきた。


自分から振ったくせに。こんなときにもだいちゃんを無視できない自分が悲しい。


「なに、」

「っほんとに……ほんとに、なにか言いたいことはないの……?」

「…………だいちゃんなんか、きらい。」



もうなんにも考えたくなかった。


最後に見えただいちゃんが、瞳を覆う温かい水で悲しげに歪む。



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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年6月28日 21時

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