冒険の傷痕:0 ページ2
「そこの旅のお方、旅の行方を占われてみないかの?」
街を行き交う人混みの中、お世辞にも綺麗だとは言えない古びたローブに身を包んだご老人に声を掛けられる。
「そうそう。そこの綺麗な紅色の瞳をしたお嬢さん、お主のことじゃよ」
まぁ入るが良い。柔らかく手招きをされ、ボロボロのテントをくぐる。
「すまないが占い師様、私は貴方の占いに払える金銭が、」
一銭もないのだ。そう言おうとした私の言葉を、占い師の軽快な笑いが遮った。
「良い、良い。…それにしても、なんとまあ大人びた幼子じゃ。その歳で、その重たい武器を背負って一人旅とな…」
幼く小さい私の背中にのしかかる黒鉄の斧を眺めて、占い師は短く息を吐いた。
「旅の行方も知れぬお主に、一つの未来を告げよう」
「…未来」
おうむ返しで呟いた私に占い師は大きく頷く。
「そうじゃ。良いか、今からちょうど一年後、デルカダール王国に勇者と名乗る少年が現れる。お主はその勇者と共に、旅をするのじゃ」
「…勇者?」
勇者といえば、あの御伽噺にも出てくる伝説の勇者のことか。しかしまた、なんで私が勇者と…。
眉を寄せた私に、占い師の朗らかな笑い声が降りかかる。
「さすれば、お主が今まで抱いてきた"自責の念"も報われるじゃろうて」
「…!」
幼い歳で辛い思いをしたのう、と占い師は同情にも似た目を向けてくる。
…成程。今まで占いや預言などは所詮空想の産物、真のものではないと思っていたが、どうやらこの占い師の言うことを信じてみる価値はあるかもしれないな。
それに、この平和ボケした世界に勇者が現れるのだ。考えてはいけないのかもしれないが、それも面白そうだと考えてしまう自分がいる。
「ありがとうございます、占い師様。貴方のお告げ、しかと胸に刻ませて頂きます」
「ほ、ほ、ほ。お主の旅の成功と武運を祈っておるぞ、
──Aよ」
「え、なんで名前を知っ、て」
自分の名を呼ばれたことに驚いて後ろを振り向けば、
「…いない」
そこにあるのは、歪に光った水晶玉だけだった。
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千織(プロフ) - チロル/CHIROLさん» チロルさん、初めまして!有難いコメント、とても嬉しいです…!これからも精進していくので、見守って頂けたらと思います! (2018年11月3日 7時) (レス) id: 43a89afe6e (このIDを非表示/違反報告)
チロル/CHIROL - はじめまして!ドラクエファンなので、ドラクエの夢小説を書く人がいるのか!と驚き拝見させていただきました!掴みにくい世界感を表現されていて千織さんはすごいと思いました!これからもがんばってください! (2018年11月2日 22時) (レス) id: f7aec74604 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千織 | 作成日時:2018年10月29日 20時