【明治東京恋伽】月夜と黒猫のワルツ (ページ49)

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胸の高鳴りがページ49

春「………綺麗な唇のかたちをしている。俺は愚かだ。今の今まで、君の唇がこんなに美しい造形をしているとは知らなかった。

唇だけじゃない。そのまつげも、瞳も、ほんの少しだけ薔薇色に染まった頬も………

これでも俺は、思わず手を伸ばしてしまいたくなる衝動を必死にこらえているんだっ……」

貴「あ、ありがとうございます……お世辞でも嬉しいです」

なんだか少しだけ恥ずかしくなって、それだけ告げた。

春「お世辞だって？馬鹿なことを。君にお世辞を言ったところでなんの得になる？………わかるだろ。俺が君に対して発する言葉は、全て本心だ。美しいものには称賛を惜しまない。
…………それが芸術の対象となり得るのなら…なおさらだ」

貴「(だとしてもやっぱり近いっ！！」

み、耳にさっきから息がかかって……

向こうは無意識なのかもしれないが、言われてるこっちはとんでもなく恥ずかしい訳で。

春「こんなに近くにいると、君の鼓動が伝わってくるようだ。とても………早鐘をうっている。そうだろう？」

貴「そ、そうですか？私は冷静ですよ？」

春「………ふっ。冷静ではない人がもっとも言いがちなセリフだ。絵描きの観察眼を侮ってはいけない。俺は君の考えてることが手に取るようにわかる。俺に見られて、ひどく緊張しているんだ」

貴「(わかってるんだったら、この至近距離をなんとかしてほしい……っ！)」

春「同時に、見られていることに喜びを感じてもいる。もっと良く見てほしいとすら思っている………」

貴「そ、そんなことな………」

いです。と言おうとする前に、春草さんは筆を置いて私の目を見つめた。

春「…………君は、このドレス姿を誰に見せたいの？俺だけでは物足りない？」

貴「っ！！」

ボンッ！っと一気に顔が熱くなった気さえする。
間違えなく、今の私の顔は真っ赤なのだろう。

春「笑顔もいいけど、そんな表情も素敵だね……。一体俺に何枚書かせる気？いいよ、何枚でも描こうじゃないか。俺の筆によって君は永遠の女神に………！」

鴎「＿＿＿なにをしているのだ、春草」

貴「えっ！？」

ばっと振り替えると鴎外さんがいつのまにやらドアの前で呆れた顔を浮かべていた。

鴎「春草」

春「……あぁ、鴎外さん。どうしたんですか」

くるりと鴎外さんを見る春草さんは元に戻ってた。

貴「(良かったぁ………)」

これ以上あれが続いてたら………そう考えると自然とため息が出てしまうのだった。