【明治東京恋伽】月夜と黒猫のワルツ (ページ44)

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絶対に捕まえるページ44

貴「なんかごめんなさい……色々と」

春「ちょ、調子に乗るなよ。別に君が食べたがってたから買ってやったわけじゃない。帰り道に腹の虫の大合唱を聞かされたくなかっただけだ」

貴「(ツンデレごちそうさまです)」

春「ただそれだけ………本当に」

隣を歩く彼の顔にもう、不機嫌そうな表情はなかった。
隣を歩いてもなにも言われない。

春「……昨夜の、猫のことだけど」

彼は急に立ち止まって私を見た。

春「君が寝ぼけてるんだろうって、最初から決めつけてた。ろくに話も聞かなくて………悪かった」

貴「い、いえ！そんなことないです！私が視たものが、春草さんの猫なのかどうかの自信はなくて……もしかしたら、私が本当に寝ぼけてただけかもですし…」

春「まあ、その可能性もあるだろうけどさ。でも……なんていうか」

彼は一拍おいて言葉をつづけた。

春「俺はもともと、君という異分子を歓迎していなかった。騒がしいのは苦手だから、これ以上住人が増えるのは迷惑だった」

貴「……ですよね」

春「………つまり、俺は君に八つ当たりしたんだ。それで昨日みたいな態度を取ってしまった」

貴「……八つ当たりなんかじゃないですよ……。実際に、私はお二人にすごく迷惑をかけましたから……」

そう。それは春草さんが悪いわけではない。
早い段階から、私があの家を離れればそれで問題なかった筈なのに………。

私はお二人に甘えすぎていたのかもしれないと深く反省した。

春「いや、君は悪くない。鴎外さんのいった通り俺の配慮が足りなかった。…………それだけを、一応言っておきたくって」

貴「春草さん……」

春「あの猫のこと、君は気にしなくていいから」

貴「え？」

春「初めてじゃないし。こういうこと。今までにも何度か、書いた絵に逃げ出されたことがある。帰ってこなければ、それはもう諦めるしか………」

貴「それはダメです！」

無意識に私は大きな声を出していた。

私に絵の事はわからないが、同じ絵を二度かけるかと言われたら描けるものじゃない。

貴「私が絶対あの猫を捕まえます」

春「はっ？」

貴「そんなに遠くには行ってないと思うんです。だから、絶対に捕まえますから……！」

諦めるなんて言わないで。

そう言おうと思ったが、言葉を呑み込んだ。
きっと春草さんだって本当は諦めたくない筈だから。そんなこと言われなくたってわかってるんだって。