【明治東京恋伽】月夜と黒猫のワルツ (ページ39)

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気まずさと勘違いとページ39

次の日の朝。

鴎「それでは行ってくるよ」

貴「いってらっしゃい」

いつも通り、鴎外さんの出勤を玄関で見送る。
と、思ったら鴎外さんは踵を返して私の方へと戻ってきた。

鴎「子犬ちゃん、つかぬことを聞くが」

貴「はい？なんでしょう」

鴎「もしや、春草となにかあったのかい？」

ドキリっと分かりやすく心臓が動いく。
さすが年長者だけある。
私も春草さんもいつもと変わらないと思うのだが、雰囲気が違ったのを感じたのかもしれない。

鴎「また春草がお前に無神経な事を言ったのではないか？」

貴「そうじゃなくて……私が昨夜、寝ぼけて春草さんの部屋に押し掛けちゃって………」

鴎「部屋に押し掛けた、だと………っ？」

貴「えっと……鴎外さん？なんで嬉しそうなんですか……」

目を輝かせる鴎外さんに思わず頬がひきつった。
絶対なにか勘違いしてる。

鴎「なんの問題もないではないか。むしろ歓迎するべき事案だ。」

貴「ですからそうじゃなくて……」

鴎「なんにせよ、お前が気に病む必要はない。あの男は少々気難しいが、細かいことをいつまでも根に持つような輩ではないよ」

貴「……そう、ですよね」

鴎「縁あって１つ屋根の下で暮らしているのだ。なるべくなら仲良くやれるといいのだがなぁ」

鴎外さんの言葉に私も頷いた。
たった１ヶ月だとしても、嫌われて現代に逃げ帰るようなことだけはしたくない。

＿＿＿＿＿＿＿

その日の午後はフミさんと屋敷の掃除。
フミさんは最初こそ私のことを訝しげに見ていたが、

貴「フミさん！私と結婚しましょうっ！」

フ「あらあら、ありがとうございます」

という冗談(半分本気)に笑顔でスルーしてくれるレベルでは仲良くなった。

春「ただいま」

貴「あ、春草さん。おかえりなさい」

春「あぁ」

短く返事をすると淡々と階段を登っていった。

貴「(明らかに不機嫌だぁ……)」

こうなると、もう少し時間を置いてから謝りにいった方がいいのかもしれない。

と思っていたら、二回からバタバタと慌ただく誰かが降りてくる音がした。

春「＿＿＿猫はっ！？」

貴「えっ？」

春「ね、猫、猫がっ………」

再びサンルームに降りてきた春草さんは彼に似つかわしくないほど焦ってあちらこちらを調べて回っていた。

春「って、俺が見えるわけない………か」

そう言って大層疲れきった様子で彼はソファーへと沈み混んだ。